4月の母子手帳変更、リトルベビーの親らの長年の悲願叶える

記事のポイント


  1. こども家庭庁は今年4月、母子健康手帳の発育曲線グラフに変更を加えた
  2. 目盛りの最小値を身長は20センチ、体重は0キログラムにした
  3. 小さく生まれた赤ちゃんの親たちの悲願が叶った

こども家庭庁は今年4月、母子健康手帳の「発育曲線グラフ」の最小値を、身長は従来の40センチから20センチに、体重は従来の1キログラムから0キログラムに変えた。今回の変更で、小さく生まれた赤ちゃんも、母子手帳の発育曲線に記録がつけられるようになった。母子手帳は日本の発明品として世界にも普及が広がるが、今回の発育曲線の目盛り変更は、小さく生まれた赤ちゃんの親たちの悲願でもあった。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

母子健康手帳は4月、発育曲線グラフに大きな変更を加えた

​1948年に日本が世界で初めて導入した母子健康手帳は、母親や赤ちゃん・子どもが必要なケアを継続的に受けられるようにするための重要なツールだ。日本だけでなく、アジア・アフリカなどの途上国を中心に、世界約50カ国に普及している。

その日本の母子手帳について、こども家庭庁は今年、子どもの発育の様子を記録する「発育曲線グラフ」に大きな変更を加えた。

「手に取って見ただけでは、どこが変わったのかわからないかもしれない。しかしこれは、小さく生まれた赤ちゃん(リトルベビー)の親たちの長年の悲願だ」と、長年、母子手帳の研究や海外への普及活動に尽力してきた公益社団法人日本WHO協会の中村安秀理事長は、この改訂の意義を力説する。

日本では、出生時の体重が1000グラムに満たない「超低体重出生児」が年間で約2500人生まれる。

小児科医である中村理事長自身は、これまで多くのリトルベビーの親たちから、「小さく産んでしまい、保育器の中でたくさんの管につながれた姿を見ると、申し訳ない気持ちや不安でいっぱいになる」との声を聞いてきた。

しかも、母子手帳を開いても、わが子の出生時体重を書き込む場所がグラフの中にはない。母子手帳の内容に、1000グラム未満のリトルベビーの親の94%が「不快な気持ちになったことがある」と回答したとの調査結果もある。

中村理事長は、「長年にわたり、母子手帳のグラフの目盛りの改善を訴えてきたひとりの小児科医として、『だれひとり取り残さない』という今回のこども家庭庁の決断には大きなエールを贈りたい」と今回の変更を評価した。

発育曲線グラフの最小値が、体重は0kg、身長は20cmに変わった

■日本は「世界で最も赤ちゃんが救われる国」

ユニセフの「世界子供白書2023」によると、世界全体では新生児の死亡は約200万人に上る。5歳未満の死亡の約47%を生後28日間の新生児が占める。

日本は、先進国の中で見ても40年以上、新生児死亡率の低さでトップクラスを維持している。「世界で最も赤ちゃんが救われる国」として知られる。

なかでも「400~500gの体重で生まれた赤ちゃんのケアは、日本が得意としているところ」と大阪母子医療センターの和田和子副院長は、公益社団法人日本WHO協会が4月7日の世界健康デーに開催したイベントで説明する。

小さく生まれた赤ちゃんに関しては、国際的に協働してデータベースを構築し研究する体制が整備されてきた。日本と同様に、米国や欧州でも小さな赤ちゃんが救えるようになってきているという。

企業も小さく生まれた赤ちゃんを支援する

小さく生まれた赤ちゃんを取り残さない取り組みを実直に続ける企業もある。日本や中国で、哺乳びんの圧倒的なシェアを持つ育児用品メーカー・ピジョンだ。

同社は、病院・産院のNICU(新生児集中治療室)との共同研究を進めている。吸う力の弱い小さな赤ちゃんや障がいのある赤ちゃんの体への負担を最小限にしながら、母乳やミルクをしっかり哺乳できる専用商品を開発・提供してきた。

1500グラム未満で生まれた赤ちゃんは、おなかの外の世界で生活するための機能が未熟で、さまざまな感染症や病気に罹るリスクも高い。また小さく生まれた赤ちゃんのお母さんは、早産で十分な量の母乳が出ないといった悩みも抱えがちだ。

ピジョンは、自分のお母さんから十分な母乳が得られない赤ちゃんに、寄付された母乳(ドナーミルク)を提供する「母乳バンク」について、本社1階を提供して拠点を開設するなど、2020年から全面的な支援を続けている。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #SDGs

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