生活困窮者が急増も「『自国第一』で経済格差は解消しない」

記事のポイント


  1. 所得格差が低いとされる日本でも、相対的貧困率は上昇している
  2. 生活困窮の原因が外国人優遇にあるかのような言説も流布する
  3. だが、「自国ファースト」で経済格差は解消するのか

■第一特集: 自国第一主義の相克 軋むグローバリゼーション(オルタナ82号<9月30日発売>から)

他の先進国と同様、日本でも所得格差が広がり、相対的貧困率は上昇している。物価高のなかで迎えた参院選では、生活困窮の原因が外国人優遇にあるかのような言説も流布した。だが、「自国ファースト」で経済格差は解消するのか。貧困問題に取り組む特定非営利活動法人自立生活サポートセンターもやい(東京・新宿)の大西連理事長に聞いた。(オルタナ輪番編集長・吉田広子)

大西 連(おおにし・れん)
特定非営利活動法人自立生活サポートセンターもやい理事長。2010年ころから生活困窮支援に携わる。2021年6月から24年3月末まで内閣官房孤独・孤立対策担当室政策参与。24年4月から内閣府孤独・孤立対策推進参与。主著に『すぐそばにある「貧困」』(ポプラ社) など。

■ 都庁前の食料配布、毎週800人が列をなす

――「もやい」は2001年から、生活困窮者の支援を行っています。最近では、物価高の影響も大きいのではないでしょうか。

コロナ禍で相談件数は急増しました。収束後も落ち着くことはなく、物価高の影響で相談者はますます増え続けています。特に毎週都庁前で行っている食品配布活動では、コロナ前は約100人だった列が、いまでは約800人にまで膨れ上がっています。

相談に来られる方々は、必ずしも住まいを失った方ばかりではありません。仕事を持つ人や年金で暮らす人など、これまで支援が必要ないと考えられてきた層も多く含まれています。

物価が上がり支出は増える一方で、収入はほとんど増えない。そうした「ぎりぎりの生活」を強いられ、支援のないまま困窮している実態があります。

――働いているけれど、生活が苦しい方が増えているのですね。

かつての貧困は、主に「失業」が原因でした。景気が悪化して仕事を失い、収入が大幅に減少することで生活が苦しくなる――。その構図は分かりやすかったのです。

しかし、近年の問題は失業ではなく、「働いていても賃金が低い」という点にあります。子育てや介護などさまざまな背景を抱えながら、生活が完全に破綻しているわけではないけれど、ぎりぎりで踏ん張っている方が非常に多いのです。

かつての日本社会では、たとえ生活が厳しくても家族や親族といったインフォーマルな支えがあり、問題が表面化しにくかったのかもしれません。ところが、この10〜20年でそうした支えは縮小し、生活の厳しさがより可視化されるようになったと感じます。

確かに日本経済は成長し、株価も高い水準を保っています。しかし、その恩恵はすべての国民に行きわたってはいません。非正規労働者やフリーランス、ギグワーカー、短時間勤務で働く人々の暮らしは決して楽ではなく、将来を見通せない不安が社会全体に広がっているように思います。

(この続きは)
■ 不安が「自国ファースト」につながるのか
「能力主義」は平等か、評価する仕組みに疑問も
「勝者」が新たな階級社会を生み出す危険も

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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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