JBIC・三井物産など関与のモザンビークLNG事業で人権侵害相次ぐ

記事のポイント


  1. 日本も関与するモザンビークのLNG事業で、人権侵害が相次ぐ
  2. プラントを警備する軍特殊部隊が、地域住民を虐殺した事件も
  3. 参画する日本の金融機関・企業のデューディリジェンスが問われる

アフリカ・モザンビークのLNG事業が、環境NGOの批判を集めている。プロジェクトは仏トタルエナジーズを中心に、国際協力銀行(JBIC)や三井物産など日本の金融機関・企業も参画する。しかし、気候変動の悪化や生物多様性の損失、住民の強制移転といった問題が指摘され、プラントを警備する軍が地域住民を虐殺した事件も明るみになった。来日した現地NGOのメンバーは「現地で何が起きているか、デューディリジェンスの徹底を」と訴える。(オルタナ副編集長=長濱慎)

「モザンビークLNG」サイトのトップページ。海中から採掘した天然ガスを液化し輸出する(写真: Mozambique LNG)

■JBIC、三井物産、3メガバンクなどが関与

アフリカ大陸の東海岸に位置するモザンビークでは、2010年代に入り大陸最大規模のガス田が発見された。2030年代には米国や豪州、カタールに次ぐLNG(液化天然ガス)供給地になるポテンシャルがあると目されている。

2025年8月には「第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)」のために来日したダニエル・チャポ大統領が、石破茂前首相と今後の開発に向けた連携を確認し合った。

LNG事業は稼働中のものを含めて4つある。今回取り上げる「モザンビークLNG」は、仏トタルエナジーズを中心に、日本やタイ、インドを含む国際的な企業連合が開発を進める。イスラム系武装勢力による治安悪化を理由に2021年から中断していたが、トタル社は10月25日に再開を表明。2029年〜30年の操業開始が見込まれている。

最終的には4300万トンのLNGを生産し、その3割が日本に輸出される計画だ。約35億米ドルの投融資を行う国際協力銀行(JBIC)や、トタル社(26.5%)に次ぐ出資比率(20%)の三井物産(JOGMECとの合弁会社)など、事業には多くの日本の金融機関・企業が関与している。


〈公的機関〉

・国際協力銀行(JBIC): 約35億ドルの投融資

・エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC): 開発・液化事業費50%上限(累計約14.4億ドル)の出資

・日本貿易保険(NEXI): 海外保険会社と共同で民間銀行団などの融資総額20億ドルに対する保険引受

〈企業・金融機関〉
・Mitsui E&P Mozambique Area 1 Ltd.: 三井物産とJOGMECの合弁会社で、権益の20%を取得

・千代田化工建設: 一部プラントの設計

・東京ガス、東北電力、JERA: オフテイカーとしてLNGの約3割を購入

・民間銀行団: 三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行、日本生命保険、SBI新生銀行

・日本郵船、商船三井、川崎汽船: 新造LNG船の保有

※国際環境NGO「FoE Japan」資料を基に作成

国の北東部に位置するモザンビークLNG。現在は「不可抗力宣言」を解除し建設再開へ。他に3つのLNG事業がある。(図: 国際環境NGO「FoE Japan」)

■国立公園の生物多様性を損なうリスクも

世界的に化石燃料からの脱却が求められる中で、モザンビークLNGは気候変動への取り組みを後退させる。座礁資産化によって、地域の暮らしや経済を悪化させるリスクも大きい。

LNGは燃焼時のCO2排出量が石炭の約半分であることから、日本政府は再エネ普及までのトランジションエネルギーに位置付ける。しかし一方で、温室効果がCO2の25倍あるメタンを含み、原料の採掘や精製を含むサプライチェーン全体でのCO2排出量は石炭を上回るという報告もある。

プラント建設地の近隣には、ユネスコの生物圏保護区に指定されたキリンバス国立公園があり、イルカやウミガメなど多数の海洋生物が生息。建設による土砂や廃棄物、運搬船が運んでくる外来種などによって、これらの生物多様性が損なわれるリスクも懸念される。

■モザンビーク政府が不利益を被る構図に

このほど来日した現地NGO「ジャスティサ・アンビエンタル(Justiça Ambiental!: ポルトガル語で環境正義)」国際コーディネーターのダニエル・リベイロ氏は「環境破壊だけでなく、環境正義の視点からも問題を考える必要がある」と指摘し、こう続ける。

「よく一般的に、開発をすればその国の経済が発展するといわれるが実情は違う。今回のケースでも、モザンビーク政府はLNG事業による経済成長と国民生活の向上を謳った。実際はそうならず、モザンビークが利益を得られない構図になっている」

モザンビークLNGの事業を行うにあたり、トタル社はアラブ首長国連邦・アブダビにコンソーシアムを設立し、本来モザンビーク政府に支払われるべき20%の税を回避。モザンビーク政府は、利子にかかる税のみで最大14億8000万ドルの損失を被ることになった。

さらに問題なのが、契約にISDS(投資家と国との間の紛争解決)が含まれることだ。これは、資金を提供する投資家が何らかの不利益を被った場合に投資先国の政府に金銭的補償を求められる取り決めで、世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターなどが仲裁判断を行う。

資金潤沢な先進国の投資家に、貧困にあえぐ途上国政府が補償を命じられるケースも多い。モザンビークLNGの事業規模は当初200億ドルと見積もられていたが、先述した4年間の中断によって約45億ドルの追加費用が生じた。こうした金銭的負担を、モザンビーク政府と国民が負うことになるリスクが懸念される。

■プラント警備兵による虐殺の背景

強制立ち退きへの補償もされず

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。