牛乳の賞味期限を延ばす動きが広がる: 江崎グリコなど

記事のポイント


  1. 牛乳の賞味期限を延長する動きが広がってきた
  2. 江崎グリコとよつば乳業は、牛乳の賞味期限を14日間から16日間に延ばす
  3. 品質管理の専門家は「もっと延ばせるはず」と指摘する

牛乳の賞味期限を延長する動きが広がってきた。江崎グリコとよつば乳業は、牛乳の賞味期限を14日間から16日間に延長する。江崎グリコは赤ちゃん用粉ミルクの賞味期限も1カ月間延長する。品質管理の専門家は、「もっと延ばせるはず」と指摘する。(オルタナ客員論説委員・井出留美)

デンマークの牛乳(Too Good To Go提供)

牛乳の賞味期限を延長する動きが広がっている。2025年3月、消費者庁が食品期限表示の設定のためのガイドラインを改訂したことを受けての動きだ。

江崎グリコは2025年9月24日、牛乳商品の賞味期限を14日間から16日間へと2日間延長することを発表した。よつ葉乳業株式会社も2025年10月1日、牛乳類の賞味期限を14日間から16日間へと延長するとのプレスリリースを発表した。

■品質管理の専門家「もっと延ばせるはず」

牛乳の賞味期限延長の動きについて、筆者が配信しているニュースレターで紹介したところ、品質管理の専門家である読者の方から、以下の趣旨のコメントをいただいた。

「牛乳の保存性試験は10℃でおこなわれているが、現在は酪農家から牛乳工場、配送、流通、小売、家庭に至るまでのほとんどが6℃未満で管理されており、「10℃」という縛りがあるがために期限を延長できないのではないか」

「10℃の規定は戦後間もない頃に決められたものであり、現在、これに基づく必要はない。牛乳以外にもチルド食品と呼ばれるものすべてがこのルールに苦しんでいる」

現在、牛乳の一括表示には保存方法として「10℃以下で保存してください」と明記してある。だが専門家いわく、生産者から消費者に至るまでのサプライチェーンでは6℃以下で管理されている、それなのに10℃という高い設定にしているがために期限を延ばせないのではないか、というのだ。

■英国、牛乳の期限表示を「賞味期限」に変更

英国では大手スーパーのモリソンズが、2022年1月末から、自社ブランドの牛乳の期限表示を、短い「消費期限」から「賞味期限」へ変更した。消費者に対しては、牛乳の期限が切れたらにおいを嗅いで飲めるかどうかを自分で判断するようにと呼びかけた。

モリソンズが期限を延長したのは、大学の調査結果を受けての動きである。英チェスター大学の調査によると、英大手小売の4大スーパー(「BIG 4」と呼ばれる)テスコ、セインズベリー、アズダ、モリソンズで販売されている牛乳が、未開封のまま、4℃に保った冷蔵庫に保管してあれば、消費期限(use-by date)を過ぎても安全に飲めることが判明したためだ。

英国の非営利組織WRAP(ラップ)によると、牛乳はジャガイモ・パンに次いで3番目に多く捨てられる食品である。

英国では毎年33万トンの牛乳が廃棄されており、金額にして1億5000万ポンド(約305億円、2025年10月26日現在のレート)に及ぶ。

WRAPは、牛乳の消費期限をたった1日延ばすだけで、英国で2万トン、金額にして1000万ポンド(約20億円)の牛乳の廃棄が削減できると試算している。

つまり、牛乳の期限表示を変えるだけで食品ロスを減らせる可能性があるということだ。

■欧州や米国では期限表示を変更して食品ロスを減らす

英国では2022年に小売企業が賞味期限を撤廃する動きが続いている。食品ロスを減らすことが目的だ。

米カリフォルニア州では、期限表示を「消費期限」「賞味期限」の2種類に統一する法案が通過し、2026年7月1日から施行される。米国では50種類以上もの期限表示が乱立しており、その混乱が食品ロスの一因になっているためだ。

米国全土でも、期限表示を統一するための法案が出された。法案が出されるのはこれで4度目である。

■賞味期限は「おいしいめやす」

一般的に「消費期限」は、日持ちの短いおにぎりや弁当、サンドイッチなどに表示され、「賞味期限」は缶詰やパスタ、レトルト食品など、日持ちの長いものに表示される。

「消費期限」は食品を安全に食べられる期限だが、「賞味期限」はおいしさのめやすである。

日本で販売されている牛乳の場合、低温殺菌牛乳には「消費期限」表示がされており、高温殺菌牛乳には「賞味期限」が表示されている。

■専門家「6℃以下で管理の牛乳・チルド食品は期限を延長できる」

冒頭の品質管理の専門家によれば、事業系のサプライチェーンでは牛乳やチルド食品は6℃以下で管理されているという。

消費者の暮らす家庭に目を向けると、日本の大手家電メーカー各社による冷蔵庫の推奨温度は2℃から6℃程度であり、10℃より低い。とすれば、牛乳をはじめとしたチルド食品全般の賞味期限については延長できる可能性があるのではないだろうか。

筆者が2022年、牛乳の賞味期限についての記事を書いた際、食品関連事業者は次のように話していた。

「期限表示はあくまで未開封であることや保存状態にもよるので、日付だけを信頼するのもどうかと思う。批判的思考を持つことは、賞味期限の本質に迫る意味でも重要。英国のような議論が日本の消費者から起こってくるためには、子どもの頃からの教育が必要かもしれない」

賞味期限を鵜呑みにしないことは大切だ。が、賞味期限を消費期限と混同する消費者が存在する現状では、牛乳やチルド食品の保存性試験の温度設定の「10℃」を見直し、現状に即した「6℃」で試験し、その結果に基づいて期限を延長することで、日本の食品ロスをさらに削減できる効果は期待できるのではないだろうか。

この記事は、執筆者が2025年10月26日に「Yahoo!ニュースエキスパート」に掲載した記事オルタナ編集部にて一部編集したものです。執筆者による過去の「Yahoo!ニュースエキスパート記事こちらから、執筆者のニュースレターパル通信」はこちらからお読みいただけます。

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井出 留美(オルタナ客員論説委員)

ジャーナリスト。奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力。著書『私たちは何を捨てているのか』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』『SDGs時代の食べ方』『食べ物が足りない!』他。食品ロスを全国的に注目されたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞など受賞。

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