記事のポイント
- 環境省は今年3月、環境表示ガイドラインの改定版を公表した
- しかし世界で進むグリーンウォッシュ規制と照らすとまだ不十分だ
- 国際標準を満たさない国内ガイドラインは、安心材料にはならない
世界的にグリーンウォッシュ規制が進む中、環境省は今年3月、「環境表示ガイドライン」の改定版を公表した。国際的な環境法律NGOのクライアントアースは、国際標準を満たさない国内ガイドラインは、特に海外市場で展開する企業にとっては安心材料にはならない、と指摘する。一般社団法人クライアントアースの嶋田亜由美弁護士に寄稿してもらった。(オルタナ編集部)
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環境省は2026年3月31日、世界におけるグリーンウォッシュに対する規制と執行の強化に倣(なら)い、「環境表示ガイドライン」の改定版を公表した。それ自体は前向きな一歩であるが、まだ十分とはいえない。世界で進むグリーンウォッシュ規制の強化と比べると、日本企業にとってなお注意すべき論点は残っている。

■国際基準とのギャップは大きい
近年、環境表示をめぐる規制と執行は各国で急速に進んでいる。EUでは、消費者のグリーン移行を支援する新たな指令(Directive (EU) 2024/825)に基づいて制定・改訂されたEU加盟国の国内法が2026年9月27日から適用される。これにより、曖昧で裏付けの乏しい環境主張に対する規律はさらに強まる。
とりわけ、 Directive (EU) 2024/825により、「環境にやさしい」「エコ」「グリーン」といった一般的で曖昧な表現や、オフセットを前提にした「カーボンニュートラル」「クライメット・ニュートラル」などの表示は、これまで以上に明確に問題視されるようになった。
ポイントは、単に裏付けを求めるだけでなく、一定の類型については、個別判断に委ねるのではなく、最初から禁止に近い形で整理されたことにある。
英国やオーストラリアなどの他国においても、消費者法当局が、ガイドラインを通して、「ネット・ゼロ」「カーボンニュートラル」を含む環境・サステナビリティ表示は真実、正確であり、かつ合理的な根拠に基づくものでなければならないことを明確にしており、環境表示の透明性や裏付けを重視する流れが強まっている。
これは日本企業にとって、他人事では済まされないリスクである。
たとえば今年3月には、マツダのニュージーランド法人によるカーボンオフセット関連の表示が、グリーンウォッシュに当たるとして同国の広告基準局(Advertising Standards Authority)に申し立てられ、その後、問題とされた表現がウェブサイトから削除された。
マツダが表現を撤回したことで、この案件は正式な判断まで進むことなく収束している。
報道によると、対象となったのは、新車1台の販売につき5本の木を植樹し、保証期間中のCO₂排出による環境影響を緩和できるかのような表現である。申し立ての際に提出された試算によると、マツダCX-5は5年間で約12.7トンのCO₂を排出する一方、5本の木が同期間に吸収できる量は約0.0015トンにとどまり、相殺には約4万1千本の木が必要とされた。
サプライチェーン、投資家対応、海外展開のいずれかを通じて、日本企業は国際的な基準と向き合わざるを得ない。このような日本企業にとって、国際標準を満たさない国内ガイドラインが海外市場での安心材料になることはない。
■改定後も残る5つの論点
私たち一般社団法人クライアントアースは、2026年3月、環境省の改定案に対して意見を提出し、いくつかの重要な論点を指摘した。
第一に、国際的な規制および執行が強化されている環境表示の例が、なお十分に織り込まれていない点である。国内の基準に照らして問題がないと考えられる表示であっても、海外ではより厳しい評価にさらされる可能性がある。
第二に、カーボンオフセットに依拠した環境主張への向き合い方である。マツダのケースが示すように、サプライチェーン外のカーボンオフセットを実際の製品・役務に関する温室効果ガス排出量削減と結びつける主張は、いまや厳しく問われる時代になっている。改定ガイドラインは、こうした主張に求められる正確性と説明責任について、より明確な考え方を示す必要がある。
第三に、将来目標に関する表示である。ネット・ゼロや移行に関する将来のコミットメントは、具体的な根拠、時間軸、実行計画を伴わなければ、かえって誤認を招きうる。環境コミュニケーションは、掲げる目標の大きさだけでなく、それをどう実現するのかまで含めて問われる時代に入っている。
第四に、化石燃料に関する表現である。日本ではエネルギー転換が進む一方で、化石燃料に関連する事業や化石燃料がクリーンであるかのような広告表現も依然として多い。国際的に見れば、化石燃料をめぐる表現に対する視線は厳しさを増している。化石燃料のクリーンさや移行への貢献を印象づける表現については、企業はこれまで以上に慎重であるべきだ。
第五に、企業全体の姿勢やイメージに関する発信である。今回の改定は、製品やサービスに直接関係しない企業姿勢やイメージ広告もガイドラインに含めた点で前進といえる。他方、現行法ではこれらの環境表示を取り締まることができず、事業計画、サステナビリティページを含むホームページの記載、統合報告書、投資家向け資料などで用いられる抽象的な環境表現が、どこまで十分に検証され、説明されているかは、引き続き重要な実務課題として残る。
■先送りできない環境表示の見直し
EUの新ルールの適用開始は2026年9月27日と目前に迫っている。欧州市場に製品やサービスを提供する企業だけでなく、海外市場を見据え、グローバル投資家や海外の取引先と向き合う日本企業にとっても、環境コミュニケーションの見直しは先送りできない課題だ。
日本の改定ガイドラインは出発点にはなりうる。だが、それだけで安全圏に入ったと考えるべきではない。むしろ今こそ、国際基準を踏まえて、自社の表示や発信を点検し直す必要がある。



