東京五輪と食材選定基準――日本農業 常識と非常識の間

ちなみにロンドン五輪ではGAP取得の農産物を基本基準とし、さらに意欲的基準としてオーガニック、つまり自然循環や持続可能性を重視した有機農産物など有機認証食材であることを条件としていた。

東京五輪はさらに質の高い実現が求められることになりそうだ。しかし日本では、認証された有機農産物は全体の0.24%に過ぎない。GAP認証も最近増加傾向にあるがまだまだ少なく、MSC・FSC認証に至ってはほんの数件という有り様だ。このまま行けば、東京五輪で使える食材などは日本国内にほとんどないことになる。

東京五輪の組織委員会は、選手村の食堂を「和食を世界にアピールする場」と位置付けている。つまり「おもてなし」の重要な柱となるはずの和食で、使用食材のほとんどが認証された輸入食材という、笑うに笑えない話になりかねない。

和食を作り上げてきた背景にある日本人の自然観に基づけば、本来はこのようなグローバルスタンダードに左右されることなく、自然の摂理に従い、最も環境に配慮し、素材を生かし無駄なく使う、一物全体の和食の素晴らしさを伝える絶好の機会であるはずなのだが、残念ながら日本の食のあり方は、現在その対極にある。

今や持続可能性を最も軽視しているのが日本といっても過言ではない。日本ウナギがレッドリストになり、マグロもエビも世界の約80%を日本が消費。まさに和食が資源を喰い尽くす様相だ。

少なくとも東京五輪開催までの5年間、そのことをまっすぐに見つめ、世界に冠たる和食の素晴らしさを再構築する契機にしたい。

※この記事は、本誌連載の「日本農業 常識と非常識の間」オルタナ42号(2015年9月30日発売)から転載しました。
オルタナ42号 報告:グリーンネイバーフッド の紹介は⇒ http://www.alterna.co.jp/16271
amazonはこちら⇒ http://www.amazon.co.jp/dp/B015EKHX5U/

tokuemichiaki

徳江 倫明(オーガニックフォーラムジャパン会長)

1951年熊本県水俣市生まれ。78年「大地を守る会」に参画、有機農産物の流通開発を行い、88年日本初の有機農産物の宅配事業「らでぃっしゅぼーや」を興す。その後オーガニックスーパー、有機認証機関の設立などを手がけ、環境と食の安全をテーマにソーシャルビジネスの企画開発に挑戦し続けている。現在は(一社)フードトラストプロジェクト代表理事、生産と販売を繋ぐ“東京産直オフィス”FTPS株式会社を運営。

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