持続可能な発展のためのビジネスや組織づくり

荒木由季子氏(日立製作所)からは、ソーシャル・イノベーションに焦点を当てて様々な産業分野で事業を展開している日立製作所の取り組みについて報告がなされました。同社はグローバル企業として2通りの方法で社会に対する責任を果たしていると言います。

一つは、エネルギービジネスや輸送ビジネス、医療健康ビジネスなどを通して社会的課題に取り組むことにより社会に対する価値を生み出し提供する「ソーシャル・イノベーションビジネス」によるポジティブ・インパクトです。もう一つは、人権・サプライチェーン・多様性・健康と安全・環境負荷の低減などの7カテゴリにおいて、ビジネスのもつネガティブ・インパクトを低減することです。

一例として、ソーシャル・イノベーションビジネスをリードしていくための研究開発に関する取り組みが紹介されました。従来は研究および技術開発で終わってしまっていましたが、利益を生むイノベーションにしていくためにプロダクトアウトからマーケットインへ移行し、顧客・社会や他のステイクホルダーとともにイノベーションを創出していく顧客ベースのイノベーションを目指しているということです。そのため研究開発組織の再編成が行われました。

戦略担当部署と併せてソーシャル・イノベーション・グローバル・センターとテクノロジー・イノベーション・グローバル・センターを設け、顧客との協働を推進する研究者を配置し、市場ニーズに応える革新的イノベーションを生み出していくということです。

ルイジ・コラントゥオーニ氏(トタル社、フランス)は、石油・ガス業界は気候変動問題の一端ともなっているが、新たな解決の担い手でもあると指摘し、同業界で約90年の歴史をもつ世界第4位のグローバル企業 トタル社の取り組みについて報告しました。

同社ではエネルギー会社として何ができるか検討した結果、太陽光エネルギーを活用して環境への影響を軽減するとともに、貧困層の人々にエネルギーへのアクセスを可能にすることを目的として2010年より「AWANGO」プロジェクトを実施しています。本プロジェクトは、送電線網のない地域に住む貧困層13億人を対象とし、太陽光発電による照明器具や携帯電話などの小さな電気製品の充電もできる機器を提供しています。

環境負荷が少なく持続可能で、貧困層自身が維持でき、近代的で信頼性があり、貧困層が購入可能な価格で提供されるエネルギーとして、通常のビジネスに埋め込まれたソーシャルビジネス・モデルを確立したということです。

ビジネスモデルの構築にあたっては、商品コンセプトの検討、サプライチェーンの最適化、顧客への情報伝達/顧客教育、遠隔地への流通、コミュニティにとって効果的な資金調達、消費者の声を活かした商品改良、顧客サービス、利益の再投資というプロセスを経ていったということです。

2011年にパイロットプログラムとして4カ国でサービス提供をはじめて以来、2015年までに28カ国に拡大、6カ国で準備中という状況にまで普及したということです。同プロジェクトは500万人の生活を改善し、同社のソーシャルビジネスとして最初の大きな成果となったことが報告されました。今後は2020年までにアフリカの2500万人の生活を改善していくことを目標としているということです。

ヨアヒム・シュワルバッハ教授(フンボルト大学ベルリン、ドイツ)は、持続可能な発展を商業史上最大のビジネスチャンスの一つだと捉えて産業を再定義・再設計するビジョナリーな企業や企業内企業家の重要性を指摘し、サステナブル・イノベーションのステップを示しました。

企業はまず、インサイドアウト・アプローチからアウトサイドイン・アプローチへの戦略の見直しが必要になります。アウトサイドイン・アプローチでは、持続可能性にかかわる問題を解決するために期待される能力を自社がもっているかどうかがビジネスの成功と競争力を左右します。

「社会はどのようなニーズをもっているのか。自社はそれにどう応えられるか」「自社が引きおこすポジティブ・インパクト、ネガティブ・インパクトは何か」。こうした問いに答えられなければなりません。

そしてバリューチェーンを構成するすべての活動のイノベーション・プロセスに、サステナビリティを組み込んでいく必要があります。それは研究開発部署だけでなく全従業員および様々なステイクホルダーがかかわるオープン・イノベーションであり、漸進的改善ではなく創造的破壊でなければなりません。持続可能性の達成度合いを管理するために、(環境影響を客観的に定量化する)インパクト評価などの新しい手法も必要であることが指摘されました。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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