このまま人々の餌やりが続き、コイの群れが、本来の池の許容量を超えて成長していくならば(その前に餌やりなどを原因とする水質悪化の結果、疾病、酸欠などで群れが失われることも十分あり得るが)、池の生態系は崩壊しかねない。
もちろん「生態系」と言っても様々な側面からの生態系がある。水槽の中のアロワナと、その餌として投入される金魚は、生態系を構成しているとは言わない。しかし、水槽の中の目に見えない微生物の世界では、その水槽なりの生態系があるのかも知れない。そういう意味では、巨大な錦鯉中心となり、生物相としては著しく貧弱化した池にも「生態系」はできるのだろう。しかし、それが管理者の意図した新たな生態系の構築なのだろうか。
生物多様性の保全は、「遺伝子の多様性の保全」、「種の多様性の保全」とともに「生態系の多様性の保全」からなる。
自然保護区ではない、都会の一角の人が管理する池に、どのような生きものを放すかは管理者に委ねられている。小さな子どもを含め、家族連れが気軽に錦鯉を愛で、楽しむことが出来る池を目指すということは、都市部の水辺の有意義なあり方の一つだ。この管理者の判断に異論をはさむつもりはない。
とはいえ、この池は学術機関が保有する大都市の中の貴重な緑地だ。ここで、新たな生態系の構築を大切に見守ってください、と呼びかけるときの「生態系」は、生物多様性の保全にも通じるものであってほしい。
コイによる池の生きものへの補食圧が過度なものとならないよう、餌やりの制限を含め、コイの群れの「総量」をコントロールしながら、色鮮やかな錦鯉の群れと、豊かな生物相が共存できるような取組みを、是非実現してほしい。