「クレドーは経営の暴走を許さない」(J&J)

■利益優先ではいけない

――J&Jが1886年に設立されてから132年経ちましたが、クレドーはいつできたのですか。

1943年です。そのころ、おそらく株式公開を控えていたのでしょう。その公開前に自分たちの会社のフィロソフィー、私たちはこういう理念で企業を運営するのだということをしっかりと残しておきたかったのだと思います。

当時は第二次世界大戦のさなかで、米国経済も非常に厳しい状況のなか、企業が生き残りをかけて戦っている時期でした。そうした時代に、顧客が一番で、取引先にも正当な利益が得られる権利や機会を提供しなければいけない。社員を尊重して、有能な管理者を任命しなさい─そんなことまで書いてあるのです。

さらに「地域社会に貢献しなさい」「環境に配慮しなさい」など、当時の企業理念としては画期的でした。これらの責任を果たして初めて、株主はリターンが得られると書いてあるのです。

――米国の資本主義の基本は「株主資本主義」です。「株主を軽視している」という批判はなかったのですか。

当時、株式公開によって株主が増えるにあたり、株主へのけん制の意味もあったようです。株主はリターンを求めます。その要求に応えるためには顧客や社員を大事にし、良き企業市民として地域から認知されることが重要なのです。

それは歴史が証明していますし、結果も出していますので、文句を言う人はいません。ただ、株主はどうでも良いのかというと、決してそうではありません。

当然、株主に対してはきちんと説明しますし、時には自社株買いもします。株主にどうリターンを提供するかもしっかり考えます。しかし、クレドーには、株主の利益のために、顧客に対する責任や、社員に対する責任、地域社会に対する責任を妥協してはいけないと書いて
います。

それは一つのセーフティーネットです。当社は世界で14万人ほど働いていますが、正しいことをしていれば罰せられないという安心感があります。

売り上げが厳しければ、少しくらいごまかしたくなることもあるかもしれません。ところがそれをやった瞬間、社員からも社会からもそっぽを向かれてしまうわけです。

――あらゆる経営判断のシーンで、必ずクレドーが参照されるのですね。ところで日色さんは「良い会社」はどういう会社だと考えていますか。

会社が存在している理由を全社員が認識していること。それが第一の条件だと思います。その点、J&Jはヘルスケア産業なので、その目標は「人々の健康のために」という分かりやすいものです。

次に、組織に対する信頼感です。この会社は常に公平な判断をするとか、信頼感があることはとても大事です。会社は家族とまでは言いませんが、人生のうち相当の時間をともにするわけですから、会社というコミュニティーに対する信頼感はとても大切です。

※この続きは、オルタナ54号(全国書店、アマゾン、富士山マガジンサービスで発売中)でご覧ください。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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