コロナ危機では、マスクを国内で調達できない事態に陥った。モノづくりの基本は、より良いモノをより安くつくることだが、安さを追及し過ぎてしまうことで、この状況になった。
モノづくりにはもう一つ大事な基本がある。それは、モノづくりは人づくりであるということ。人はコストではない。人は「改善」の源、モノづくりを発展させる原動力だ。
多くのモノづくり企業が自社のリソースを活用して、医療用フェイスシールドやガウン、マスクの開発に乗り出したように、米国トヨタでも3Dプリンターを使って医療用フェイスシールドをつくり、日本や欧州に展開した。
こうしたことができるのは国内生産300万台体制を守ってきたから。正確には、300万台に固執してきたのではなく、世の中が困ったときに必要なモノをつくることができる人材育成を守ってきた。これは決して簡単なことではない。
今は、やたらとV字回復がもてはやされる時代になってしまった。雇用や国内でのモノづくり体制を犠牲にして業績を回復させることが、批判ではなく、評価されることが多い。
それは違う。企業規模に関係なく、苦しいときこそ技術と技能を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんある。そういう企業を応援できる社会が必要だ。
最後に私が最も大切だと考えていることを述べる。

トヨタの企業体質は危機に直面するたびに強くなったと言われる。しかし、社長に就任してから11年間で一度も強くしたいと思ったことはない。トヨタを必要とされる企業にしたいと思ってきた。