――欧州では、カーボンのネット(実質)ゼロを掲げる国や企業が増えてきました。
これらは野心的過ぎて非現実的と思われるものもありますが、世界最大の機関投資家ブラックロックや、航空大手のデルタ、マイクロソフトなども気候変動で大胆な目標を設定しました。これらはパフォーマンスと見られるかもしれませんが、数年前には無かった動きです。
全ては正しい良い方向に向かっています。最大の問題は「時間がない」ことです。科学者は2030年までにCO2の排出量を半分にせよと主張します。そのためには排出量を毎年8%削減しなければなりません。
2030年以降はさらに加速度的に削減する目標を立てないと間に合いません。今までは文化や社会が急激な変化に追いつけないと考えられていたが、今回の新型コロナがその見方を変えたのです。
■「米国はパリ協定から離脱はしない」

――4年前にトランプ米大統領がパリ協定離脱を表明した時、マイクロソフトやスターバックスなど2000社以上が「We are still in」(私たちはパリ協定から抜けていない)連合を組み、協定離脱の反対運動を始めました。こうした企業の動きをどう評価しますか。
まず、米国はパリ協定からは離脱しないと思います。法的にも次の大統領選挙までは離脱できません。そもそもパリ協定は気候変動に対する「最初の一歩」であり、次のCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)で目標を見直す予定でしたが、新型コロナで延期されました(開催地は英国グラスゴー)。
しかし、パリ協定の締約国がそれぞれの目標でさえ達成できていない中、さらに高い目標設定は非現実的です。米国がパリ協定に参加せずにリーダーシップを放棄したことは道徳的に許しがたいという感情もあるでしょうが、米国の不参加がどれほどの影響があるのだろうかとも思います。
180カ国以上の締約国が拒否権をもつ中で、協定がどれだけ強制力があるのかも分かりません。京都議定書やモントリオール議定書(フロン規制)もみな同じ方式をとったにも関わらず、具体的な成果には乏しいです。国連の取り組み(モデル)自体に問題があるのかもしれません。