トレーサビリティ(履歴管理)の新しい国際標準を導入し、IUU(違法・無報告・無規制)漁業による魚介類を扱うリスクを回避することで、水産加工業界の利益率は倍増する――。英シンクタンク「プラネット・トラッカー」はこのほど、世界の水産加工業界とトレーサビリティに関する報告書を発表した。日本の水産加工業の利益率は世界最低水準にあるが、トレーサビリティの強化で水産資源保全と利益倍増を両立できる可能性が高い。(オルタナ編集委員・瀬戸内千代)
水産資源の需要が高まる今、IUU漁業を放置すれば、海の天然資源は枯渇しかねない。「トレーサブル・リターンズ」と題した今回の報告書では、4000社以上の水産加工企業を対象に、トレーサビリティ導入の課題や利点をまとめている。
水産加工業界は約15兆円の市場を持ち89社の上場企業を含むが、利益率(金利税引前利益:EBITマージン)は平均3.4%と低水準にある。水産加工企業の数が飛び抜けて多い中国と日本の市場は「細分化が最も深刻」で、利益率が特に低い。
データ不足や互換性のないシステムが原因で、世界の水産物の4分の3は履歴を追跡できない。同報告書は、IUU漁業に関わるリスクを避け、「製品の自主回収や廃棄、それに伴う法的費用の減少」を実現すれば、同業界のマージンは3ポイント増加する、つまり利益率が倍増すると説く。
トレーサビリティは合併買収よりも投資効果が高く、特に今年3月に誕生したトレーサビリティの国際標準「GDST 1.0」の導入が有効だという。GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)は2017年に発足したプラットフォームで、日本水産や日本生協連を含む世界60社以上が参加している。
国際取引が盛んな水産物を現場の負担なく効率的に追跡するには、電子化や規格の統一が鍵となる。IUUリスクの高いマグロを持続的に扱うために早くから環境NGOと協働してきたタイユニオン社は、上場大手として一番に「GDST 1.0」の導入を表明している。