飛騨高山の価値創造千年物語~現代編~

2000年を迎えたころ、バブル崩壊により国内市場も低迷し、飛騨産業の収益も悪化の一途をたどっていました。その頃、社長に就いたのが現社長の岡田贊三氏です。岡田氏は、心から自社の製品の良さを理解してもらえるお客にターゲットを絞ったコアマーケティングに転換、さらには地域資源である杉材を用いた家具の開発に乗り出しました。

この杉の利用は安い木材を海外から輸入することが当たり前だった家具の世界では革命的なことでした。確かに、戦後大量の杉が日本の山々に植林されていましたが、ブナや楢など堅い木と異なり、杉は柔らかすぎて家具に向いていないばかりか、節が多く見た目にも不適格とされていたからでした。

しかし、岡田社長は木材の圧縮技術に詳しい岐阜大学の棚橋光彦教授に相談するなどし、圧縮の前に十分に乾燥させるアイデアなどのブレイクスルーを通して、杉材の強度向上の道を開きました。さらには、それまで不良とされていた「節」をあえて「個性」と捉えて生かす、いわゆるインクルッシブな価値観の転換を取り入れ、商品化に成功したのです。これがイタリアの展示会で好評を博すと、この杉の家具が大ヒット、生産の合理化と相まって飛騨産業の復活を実現したのでした。

埋もれていた地域資源を活かし、不要といわれていたものを個性と再定義し、現代の価値観にフィットした経営は、まさにサステナビリティ経営と呼ぶにふさわしいものではないでしょうか。

■社会課題認識と長期的な観点での取り組み

岡田社長は、かつてから森林荒廃による土石流の発生や海岸部への土壌流出による漁業への被害増大、花粉症による健康被害、林業家の不足による山の荒廃、途上国の森林伐採による自然破壊、生物多様性への悪影響といった森林についての課題を深く認識していました。それら社会課題を捉える経営者としての嗅覚が、自身の信念と結びつき、サステナブルな成長軌道への転換を成し遂げたのでした。

もっとも、飛騨産業のホームページを見ても、岡田氏の著書を読んでも、「サステナビリティ」という言葉は出てきません。それは、もともと岡田氏の価値観、あるいは地域資源に根付いたものであり、世の潮流に逆らい、自らの信念を通すロックな岡田氏からすれば、「サステナビリティ」という概念でくくることにも抵抗を示されるに違いありません。

しかしながら、そんな時流に左右されない哲学も含めて、サステナビリティ経営のヒントが飛騨産業には多くあります。それは200年先を見据えた森づくり、次世代育成のためのものづくり学校「飛騨職人学舎」の設立、地元材・端材を活かしたものづくりなどの取り組みにも表れています。

このように、飛騨産業の復活は、時代の流れを見極め、現場を改革し、信念を貫く岡田社長の経営手腕に追う部分が極めて大きいといえます。しかし、その源流には脈々と受け継がれてきた飛騨の匠の技と、森林資源という太古から受け継がれてきた飛騨の歴史・資源があったのです。それを最大限に生かし、今なお持続可能な成長を続けている飛騨産業の今後から目が離せません。

私の実家で、世代を超えて愛用されている飛騨産業の家具

高山はその独自性の高い文化・人・自然が残る稀有な町ですが、都市から離れ、4年制大学もなく、人口減少が進んでおり、観光消費額が市の総生産額の約1/4を占める主力の観光業の破綻は、重大な危機となります。今、世界中に困っている方々が多くいらっしゃいますが、高山がある飛騨地域を応援したいと少しでも感じていただける方は、その力を少しでも分けていただければ幸いです。

■岐阜県
コロナに負けるな!!じゅうろく県産品応援プロジェクト
飛騨地域を含めた岐阜の銘品を集めた応援サイトです。
https://www.juroku.co.jp/kensanhin_ouen.html

■高山市
高山の地域に根差すスーパーさとうでは、地域特産品をネットで購入できます。私もよく買い物しています。
https://www.takayamasatou.com/

■飛騨市
高山の北隣りである飛騨市でもふるさと納税を通して支援ができます。素敵な街並みと人たち、祭りと酒など魅力に富んだ町で、『君の名は。』のモチーフにもなりました。そんな飛騨市で、飛騨市ファンクラブネットショップ購入特典制度が開始されました!

https://www.city.hida.gifu.jp/site/fanclub/16247.html

■下呂市
高山市と南側で隣接する日本三大温泉のひとつ下呂温泉がある下呂市は、観光のみならず、7月の豪雨で多大な被害を受けました。ぜひご支援をお願いいたします。
http://www.city.gero.lg.jp/departmentTop/node_1037/node_1041/node_54879

■白川郷
世界遺産白川郷も大変な危機にあります。富山県の五箇山と並んで、見事な合掌造りが現存する、昔話に出てきそうな美しい現代の宝石です。こちらのふるさと納税もご紹介いたします。
http://shirakawa-go.org/mura/gaiyou/463/

■参考メディア・サイト・書籍
nakahata_yoichi

中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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キーワード: #サステナビリティ

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