元農水相疑惑の裏にあるアニマルウェルフェア問題

OIEではこのアニマルウェルフェアの国際規約を定め、加盟国はその規約を畜産業者に対するガイドラインとして活用している。ガイドラインなので、守らなくても法的な罰則はないが、国際基準としてアニマルウェルフェアの推進に役立てている。

今、複数の動物福祉団体が問題視しているのが、この規約のドラフト案に、「採卵若雌鶏及び採卵鶏の良好なウェルフェアの成果は、さまざまな舎飼システムによって達成されうる――という文章が採用されたことだ。

岡田さんはこう語る。「『さまざまな舎飼システム』というのは、平飼いだけでなく、ケージ飼いも認めるということを意味する」。

「本来ニワトリは1日1万回以上地面を突き、とまり木で眠り、巣に隠れて卵を産み、砂浴びで寄生虫や汚れを落とし、日光浴をし、運動をして心身の健康を保つ。しかし、いま日本の採卵養鶏場の92%は、バタリーケージというほぼ身動きが取れないケージに閉じ込め鶏を飼育している。鶏の骨は放牧と比較すると3分の1の薄さになり、農薬を全身にかけて寄生虫を落とす。ケージ飼育は、アニマルウェルフェアが著しく低いことは明らかである」

バタリーケージの劣悪な飼育環境は世界中で問題視されており、動物福祉としてケージ飼育をやめるグローバル企業は増えている。ユニリーバやネスレ、ヒルトン、マリオットグループ、コンパスグループ、バリラなどがそうだ。

EUではケージ飼育から平飼いに切り替えた養鶏場は52.2%で、スイスでは平飼いは100%を誇る。オーストラリアでも切り替えた割合は50%を超えた。

米国は23.6%(2020年3月)だが、ケージフリー宣言をしている養鶏場が切り替えることで2025年には64%に上がる。

日本では70以上の企業や店舗が平飼いに切り替えているが、いまだ養鶏場の9割はケージ飼育だ。

ケージ飼育を行う鶏卵生産大手アキタフーズ(千葉市)の元代表から現金を授受した疑惑がもたれている吉川元農水相の指示のもとOIEに出した反対意見がドラフト案に採用されたことに対して、12月24日、アニマルライツセンターなど複数の動物保護団体はOIE本部(フランス・パリ)に規約の再考を訴える要望書を提出した。

岡田さんは、「賄賂が含まれた意見を採用してはいけない。OIEは国際的な信頼を取り戻すためにも規約を再考すべきだ」と強調する。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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