『3ステップで学ぶ 自治体SDGs』(笹谷秀光著)


また、その逆も然り。これに対して自治体は、日本では地方創生の推進ツールとしてSDGsをまち・ひと・しごとの創生、地域での「自律的循環」(資金の還流と再投資)のために役立てる(そこまで至らない場合も多いが)。

喩えていえば、企業はパートナーと事業連携していわば「線」を繋ぐ。さらにSDGsをヒントに活動の場を社会課題の領域に広げ「面」として事業を展開する。これに対して自治体は、そもそも地域という「空間」が染みついている。

困りごとをSDGsに倣い地域課題に置き換えて、空間内の密度=生活のあらゆるシーンでの利便性とその持続性を高め、地域での暮らしの安定化や活性化のため汗を流す。

では、企業と自治体、どう手を携えるのか。つまり、SDGsを通じて面が立体的に厚みを持った積木を、どう束ねて地域という枠に整えて入れ込むか。自治体自身が自立的循環を駆動させるものを自ら生み出しにくいのだから、どのように積木を集め、組み合わせ、地域空間を充足するか。自治体は問われる。

なるほど、プラットフォームとしての産官学、その中核の自治体。耳心地は良い。ただ、自律的に循環するか心もとない。著者は「金労言」、金融・労働・メディア、つまりカネ・ヒト・情報を組み合わせる。パートナー間を流れるフロー要素を加え、ダイナミズムを吹き込む考え方が新鮮であり本書の肝だろう。

もちろん、このモデルが成り立つ要件のひとつは、著者が言う共通言語としてのSDGsの理解であろう。この意味で本書や前著が果たす役割、意義、そして貢献は大きい。共通言語として理解し合えば、立場は違えども同じ市民なのだから、最大公約数としての共有感を持ち皆自分ごとにしていけるのではないか。

ただその際、国連であれ地域であれ、例えばその立場の目的とかけ離れ自分勝手化、独りよがり化するリスクをはらむ。プラットフォーム・フローモデルを含めそこを学としてどうとらえるか。学=学術の立場からSDGsをどうとらえ、何をすべきか。企業、自治体に続く著者の次の目線に期待したい。

文・甲賀聖士 昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員

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