規格外で山に捨てられる大量の柿やカフェの片隅に積まれていくコーヒー豆の麻袋など、これまでは捨てられていたものにストーリー性を加えて新たな製品によみがえらせる。SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」にも合致した理念だ。元の製品より価値の高いモノを生み出す「アップサイクル」ビジネスに取り組む2人の女性起業家を紹介する。(武田和代)
規格外の「廃棄フルーツ」を試行錯誤でグミに加工
「山に捨てられていた大量の柿。その鮮やかなオレンジ色が忘れられません」と話すのは、猪原有紀子さん。ウェブマーケターとして大阪市内で働きながら、当時2歳と0歳の子どもを育てていた4年前のことだ。家事や育児に追われ、子どもをなだめるために砂糖たっぷりで添加物も多く入ったお菓子を与える日々に、罪悪感とストレスが溜まる一方だった。
そんな時、たまたま訪れた和歌山県かつらぎ町で、特産の柿が規格外品ということで山に大量に捨てられている光景を目にしてショックを受ける。「これで無添加のグミをつくろう」と一念発起。市販のフルーツ乾燥機などを使って試行錯誤したが、ドライフルーツになってしまい、グミらしい食感は残せなかった。しかし、思いをあきらめることなく、2018年にはかつらぎ町に移住し、ビジネスコンテストなどに出て、人脈を広げていった。
その中で、大阪市立大学と共同で、湿度や温度を調整しながら最大48時間かけて乾燥させることで、果物本来の色鮮やかさと自然な甘み、そしてグミの食感が残る製品の開発に成功した。昨年1月にインスタグラムを通じて情報を広げるアンバサダー100人を募集し、試作品を食べてもらいながら意見を集め、製品の質を上げていった。そして同年10月に「無添加こどもグミぃ~。」として本格販売したところ、5時間で150セットが完売した。
これまでにも余剰・廃棄果実を使ってジュースやジャムにする取り組みはあったが、「モノがあふれる時代。子育て中の悩みや葛藤で生まれた無添加グミが共感を生み、購入者の獲得につながった」と話す猪原さん。現在、柿のほか、キウイやブルーベリー、リンゴなど、旬の廃棄フルーツを町内の9農家から買い取り、和歌山市内の福祉施設でグミとして加工するなど、地元の雇用確保にも貢献している。大阪市内の調理専門学校との共同開発で、廃棄された桃を使った無添加アイスクリームの製品化にも取り組む予定だ。