「女性蔑視」発言 「困ったときの女頼み」は論外、上野千鶴子

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)の森喜朗会長の「女性蔑視」発言が国内外で波紋を広げている。組織委員会や日本オリンピック委員会の山下泰裕会長が「極めて不適切だった」と説明し、幕引きを図ろうとするが、社会学者の上野千鶴子さんは「このままでは終わらせない」と強調する。「困ったときの女頼みでトップを女にすり替えて、五輪の中止を決めさせるという汚い手もありかも。そんな後始末はもってのほか」と語る。

社会学者でジェンダー研究の第一人者である上野千鶴子さん

――東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)の森喜朗会長の「女性蔑視」発言が国内外で波紋を広げています。上野さんはどうお考えでしょうか。

上野:この問題の論点は、4つあります。一つは、意思決定プロセスの問題です。会議は短ければよいという問題ではありません。長時間の会議が「悪だ」とすることはナンセンスです。

民主主義は意思決定コストの高いシステムです。(会議が)長いことが悪と考えることは、民主的な意思決定に関して理解がないと宣言しているようなものです。おそらく、彼自身が関わってきた会議が、忖度と根回しで成り立ったおかげで短時間で済んできたのでしょう。

二つ目の論点は、根拠のないジェンダーステレオタイピングです。「女は話が長い」、「競争意識が強い」ということを実証したデータはありません。

三つ目は、抑圧効果です。彼の発言は、女はわきまえて口をきけよという抑制効果があります。それを逆手にとってSNSでは「#わきまえない女」というハッシュタグも生まれました。数だけそろえても「わきまえて」ふるまう女ばかりなら、いくら女性を登用しても意味がありません。

最後の論点は、スポーツ界にはらむ利権体質をあぶりだしたことです。この発言に関して、現役のアスリートは取材に応じないし、発言もしていません。

コメントを出したのは、組織委員会と距離があるか、すでに引退したアスリートだけです。発言できない空気があるということは、スポーツ界全体が利権にまみれているという証拠でしょう。

もちろん、この4つの論点以外にも、彼の発言に関して、笑ったり、沈黙する周囲も問題です。沈黙は暗黙の同意を意味しますし、笑うことは共犯を意味します。森会長個人の問題ではなく、組織委の組織体質そのものが問題になるでしょう。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #ジェンダー/DE&I

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