ダイバーシティでもムスリムが取り残される現状とは

日本ムスリム協会の礼拝室

早田さんは「どのムスリムも多くを求めてはいない」という。豚肉が食べられない、ヒジャーブをかぶりたい、お酒を飲まないなどは特別なお願いではなく、アレルギーや身体の不自由がある人から発せられる社会へのお願いと変わりないのだ。

前野さんは、「特別扱いはしないでほしい、ただ理解を示してほしい」と話す。ムスリムの礼拝に対するニーズ、お酒の席に同席したくない、同席したとしても飲まないなどの行動に目くじらを立てず、理解を示してほしいという。前野さんが留学後に入社した会社では、日本人ムスリムは前野さんで6人目だったが、空き会議室などで足りる礼拝場所への配慮すら無かった。それどころか、入社時に「宗教色を出さないでほしい」と上司から釘を刺されたという。

宗教実践は個人のわがままなのか。信仰はあくまでプライベートであり、信仰を実践することは公私混同なのか。だとすれば、会社の経営陣が会社の予算で神社に参拝し、神棚を整えるなどの慣習は、宗教実践とどのように違うのだろうか。遠藤さんは「冠婚葬祭や祝いの席など、習慣として行っていることが、ムスリムにとってはできないということも大いにある」と話した。

約23万人の在日ムスリムに想像力と正しい知識を

イスラームとはアラビア語で「平和、従順、服従」などの意味を持ち、宗教としてはアッラーを唯一の神として信仰することを意味する。ムスリムはイスラームを信奉する者を指す。

米シンクタンク、ピューリサーチセンターの2015年の発表によると、世界人口の宗教別では、31.2%がキリスト教徒、24.1%がムスリム、16%が何にも属さない者で構成されている。日本人の約半数を占めるとされる仏教徒は全世界では6.9%だ。

2050年にはムスリムが世界人口の30%近くを占めるという予測もある。世界で最もムスリムが多い国はインドネシアで、人口2億7000万人の9割がイスラーム教を信仰している。

仏教や神道を信仰する人がマジョリティとなっている日本でも近年、日本生まれ、日本育ちの日本人ムスリムの数が、わずかだが増加傾向にある。店田廣文・早稲田大学名誉教授の調べでは、2019年末時点で日本人ムスリムの人口は4万6000人とされている。

一方、日本に住んでいる外国人ムスリムは推計18万3000人。日本人ムスリムと合わせて約23万人のムスリムが日本に住んでいる。それでも、すべてのムスリム人口を足しても日本の全人口の1%に満たないマイノリティであることは確かだ。

日本社会では、自分たちの「当たり前」からそれてしまう人たちを知る場や機会が乏しい。私たち一人ひとりがマイノリティとされる人の考えや価値観を知り、合理的配慮に努めることが、ダイバーシティ&インクルージョンの実現につながるだろう。

今後も増えると予想される日本国内で暮らすムスリムのほか、自分とは異なる立場や考え方、能力を持つ人たちと関わる以上、「知らない」では済まされない。だからこそ、今一度「基準」や「常識」を疑い、想像力と正しい知識を持ってさまざまな声に耳を傾けることが必要だ。

キーワード: #ダイバーシティ

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