また「脱炭素」は解決すべき多くの社会課題を集約したシンボリックな表現であり、単に「温暖化防止」「炭素排出削減」だけを意図したものではないことにも留意すべきだろう。実際、RE/EVシフトに象徴される「脱炭素化」の動機は気候変動対策だけではない。
インドや中国では中長期的な温室効果ガスの削減以上に、バイオマス(薪炭)も含めた炭素燃料由来の大気汚染(SOx/NOx/CO等)、PM2.5対策がより緊急性の高い課題であり、再生可能エネルギーへの転換の最大の動機だった。
WHOの発表では、大気汚染に起因する呼吸器障害で亡くなる人の数は年間800万人超、つまり「1日平均2万人以上」がコロナによる呼吸器障害以前に亡くなっていた――この現実を知れば、課題の深刻さも理解できよう。
またインドの「グラミン・シャクティ」(少額融資による太陽光パネル設置支援)など、世界の低所得者層へのRE普及も注目すべき新潮流だ。
だが、これも気候変動対策というより「限界費用ゼロ」(電気代はタダ)という現実的な動機、そしてハリケーン(サイクロン)のたびに電力網が途絶するというグリッド依存社会の脆弱性に対し「災害レジリエンス」を高めるという現実的な動機からだ。
つまり経済面や防災、健康被害も含めた「いのちの安全保障」「生命と生活の持続可能性」という切実なニーズからの「脱炭素化」であり、ともすれば環境保全(グリーン化)という概念に短絡・矮小化されがちなサステナビリティ概念を「いのちのサステナビリティ」といった文脈へとブロードバンド化して捉える必要があるように思う。
■毎年20兆円の化石燃料費を浮かせる「伸びしろ」