南米のベネズエラは、世界でも有数な原油埋蔵国として知られているが、米国による長年の経済制裁に加え、昨年からの新型コロナの世界的な蔓延により、深刻なガソリン不足や物資不足が続く。そうしたなか、17世期から続く「希少なカカオ」を育てることで、ベネズエラのコミュニティを安定させようと奔走する人々が、ベネズエラ産カカオの最大輸入国である日本で、クラウドファンディングを立ち上げた。(寺町幸枝)

カカオ・シェアーズの創立者アレハンドロ・パティーノさん(中央)とベネズエラにいるパートナーのアンジェリカ・パヴァーニさん(左)©︎カカオシェアーズ

ベネズエラの物価上昇率は2019年に一時268万%にまで上がり、2021年2月に3000%まで下がったものの、依然として深刻な物資不足が続く。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、世界で2番目に多い、540万以上もの人々が避難を強いられたという。

こうした危機的な状況のなかで、日本在住のベネズエラ人、アレハンドロ・パティーノさんは、カカオ農家の支援プロジェクト「カカオ・シェアーズ」を立ち上げた。パティーノさんは国費外国人留学生として広島大学に留学し、その後、ベネズエラ産カカオ豆の普及やブロックチェーン技術を利用したシステム開発を進めてきた。

「カカオ・シェアーズ」では、ベネズエラの中部に位置する、人口1000人ほどの「パタネモ村」で、カカオ生産の効率を上げるための研修や教育を実施する。このプログラムは、カカオ生産の専門的な知識を持つエレヴィナ・ペレッツ・ベネズエラ中央大学教授が開発した。

パティーノさんは、「村から街に出稼ぎに行っていた人たちが、コロナの影響で街に出られなくなり、パタネモ内でのビジネスを活性化させる必要がある。そこで規模は小さいながらも、古くから続いているカカオビジネスに目を付けた。カカオ豆の生産を増やすことで、パタネモ村の経済状況を安定させ、ベネズエラの経済発展の鍵となるフレームワーク作りをしていきたい」と意気込む。

歴史あるベネズエラのカカオ生産

実はベネズエラのカカオ生産の歴史は古い。スペイン統治下の17世紀初頭からカカオの輸出が始まった。ベネズエラを代表するカカオの品種は、苦味の少ないマイルドさが特徴の「クリオロ種」で、現在の世界的なカカオ生産において80%以上を占める「フォラステロ種」に対して、1%に満たない希少なものだ。

一方、ベネズエラのカカオ生産量は、世界1位のコートジボワールの約196万トンと比べ、年間1万5000トン程度で多くはないが、このクリオロ種の生産に限定すると、全世界の3分の1を占めている。

そのため「高品質なカカオ豆の生産地」として、国際的に業界内で高い評価を受けてきた。中でも、日本への輸出量はガーナ、エクアドルに継ぐ三番目で、日本はベネズエラ産カカオ豆の最大輸入国である。

農家を支援し、農業改革を

昔ながらの手法で行っているカカオの乾燥工程©︎カカオ・シェアーズ

カカオ・シェアーズの支援先となるパタネモ村では、100年以上村人の一部がカカオの生産に従事してきた。現在、パタネモ村では30家族100人ほどが生産にあたり、村の年間カカオ生産量は、100トンほどだ。

しかし、発酵や乾燥などの工程を経て、日本に輸出できる高品質のカカオ豆は20トンと5分の1に減ってしまうという。その理由の一つに、村人が代々伝承されてきた技術しかないために、生産効率が上がらない。カカオ農民たちが持つカカオ生産に関する知識や技術は、代々受け継いできた「古い」情報のままだ。

こうした農業生産の改革が必要な中、希少価値のあるクリオロ種のカカオを、より多くの農民たちが効率的に生産することができれば、村の経済も安定する。

「パタネモ村産カカオは、希少なクリオロ種というだけではなく、現地のカカオ農民が代々受け継いできた手法で、丁寧に育て、発酵させた高品質のカカオだ。輸入したカカオ豆を手にしている日本の多くのショコラティエ(チョコレート生産者)から、高い評価を受けている」(パティーノさん)

「カカオ・シェアーズ」のクラウドファンディングには、パタネモのカカオに魅了されたチョコラティエたちからの支援の声が集まる。「美味しいチョコレートを食べて国際支援を」というメッセージを込めたパティーノさんらの挑戦は始まったばかりだ。

●日本向けにカカオを栽培する農家たちの未来に、教育のチャンスを!