トイレはインドの水や衛生問題に直結する。そこで東さん率いるチームは、上下水道不要の「自立型トイレ」を製作した。デザインは會澤社長の希望である「3Dプリンターの可能性が伝わるような、今までにない新しいもの」を具現化した曲線で構成される。モチーフには「花」が採用された。
その上、トイレにはいくつもの最新テクノロジーが搭載されている。犯罪率も高いインドを想定し、入り口の施錠には専用アプリを利用している。今後はソーラー発電で使用電力を賄える「電気消費量の少ないバイオトイレ」も検討しているという。
「きれいなトイレ」という日本の文化も盛り込む
もう一つ、この3Dプリンターで作るトイレには大きな目的がある。それは「日本が誇るきれいなトイレ文化の輸出」だ。
「トイレをいかにメンテナンスしていくかは重要な問題だ。日本は公共性という面で優れており、世界でも稀に見る綺麗なトイレを維持できる国。日本のトイレでは『次の人のために、綺麗にトイレを利用しよう』といった注意書きを貼って、人の行動を変容させている。この仕組みを、デジタルを利用してインド向けのトイレにも採用できないだろうかと考えた」(會澤社長)。
同社は入室に利用するアプリに、トイレに入った際のトイレ状態をレーティング(格付け)する機能を搭載。レーティングした情報をブロックチェーンの中に残すことで、利用者が自分のトイレ利用に対する評価を客観的に見ることができるシステムを作りあげた。他人から評価を受けることで、人の行動がいかに変容するかという実証実験と言っていいだろう。
さらに新型コロナウイルスをはじめとした様々な菌を滅菌すると言われているフランス製のUVC(紫外線除菌装置)を搭載するなど、「概念的に、トイレをさらに進化させたものを作っている」と會澤社長は続ける。
最終的には、インドのNPO、スラブ・インターナショナルが運営する世界で唯一の「トイレ博物館」へ、「未来のトイレ」として寄贈することを目指し、現在はこのトイレの完成形を作り上げるためにプロジェクトは進行中だという。
3Dプリンターで生産するトイレが、経済的かどうかは未知数だ。単純にセメントの使用量が減るので、1㎥あたりの費用は安くなるが、今回のトイレは様々な機能を搭載させたため、非常に高額なものになっているという。しかし今後、會澤高圧コンクリートの実証実験が進んで実用化されれば、環境対策を施した公共トイレが量産される日もそう遠くないかもしれない。