23日に開幕した東京五輪(オリンピック・パラリンピック)関係者の辞任・解任は、日本の人権意識や国際感覚の無さが露呈した。言葉の使い方ひとつとっても、日本は国際的に通用する共通言語を使おうとする努力が足りないように感じる。同じことが食品の世界でも言える。(オルタナ客員論説委員=井出 留美)

例えば、新型コロナ禍で人と人との距離を保つことについて、日本では多くの人が「ソーシャル・ディスタンス」と呼ぶ。本来、この言葉は、人間の心理的な距離を示すもので、感染拡大を防ぐために物理的な距離をとることを指すのは「ソーシャル・ディスタンシング」だ。

だが政治家や都道府県の首長、メディアが「ソーシャル・ディスタンス」を使うようになってから、すっかり「ディスタンス」が一般的になってしまった。

試しにこの2つのワードを日本語で検索してみてほしい。ヒット数は「ソーシャル・ディスタンス」が圧倒的に多く、「…ディスタンシング」より2桁多い。WHOは、分かりやすいように「フィジカル・ディスタンシング」と言い換えたが、この言葉は普及していない。

筆者のテーマである「食品ロス」についても「フードロス」という言い回しを耳にするようになった。だが、これも国際感覚に合わせるとズレが生じる場合がある。

日本語の「食品ロス」は、英語では「フードロス&ウェイスト」

国連食糧農業機関(FAO)の定義によれば、フードサプライチェーンの前半(主に消費前)で発生するものを「フードロス(Food Loss)」と呼び、後半(消費後または未消費)で発生するものを「フードウェイスト(Food Waste)」と呼ぶ。FAOが毎年発表している『世界食料農業白書』(2019)には次のような説明がある。

「フードロスとは、小売業者・食品サービス事業者(筆者注:たとえば飲食店などの外食産業)・消費者を除くフードサプライチェーンの中で、食品供給者の判断や行動によって生じる食品の量や質の低下のこと」

「フードウェイストとは、小売業者・食品サービス事業者・消費者の判断や行動によって生じる食品の量や質の低下のこと」

「フードロス」という言い回しを使う人は、フードサプライチェーンの全体で発生するものを指そうとしているようだが、FAOの定義では「フードロス」は前半で発生するものしか指さないことになる。

FAOをはじめとした国際機関や英語論文を見ると、食品ロスのことは「フードロス&ウェイスト(FLW)」と表記してあることが多い。

SDGsには「食品ロスを2030年までに半減する」と書かれている、と思っている人も多い。だが、正確にはそうではない。

SDGsの17ゴールを表面的になぞるだけでなく、169のターゲットまで読んだ人、しかも英語の原文まで読み込んだ人なら、食品廃棄に関する数値目標が書いてあるターゲット12.3には、「フードロス」と「フードウェイスト」を分けて書いてあることに気づいたかもしれない。

SDGsで、「半減」という数値目標を明記してあるのは、フードサプライチェーンの後半、つまり小売りや外食、家庭で発生する「フードウェイスト」に関してだ。前半で発生する「フードロス」に関しては「減らす(リデュース)」とは書かれているが、数値目標は書かれていない。

「フードウェイスト」は、私たち消費者がアクセスできる部分だ。コンビニ・スーパー・百貨店や飲食店、ホテル、旅館、家庭で発生するものに関しては、消費者が関与する。どんな職業に就いている人でも、誰もが消費者である。

筆者は、独立する前、世界180カ国でビジネスを展開するグローバル食品企業に14年5ヶ月勤めていた。その際、外国籍の人に通用すると思って使っていた言葉が、実は和製英語で、全く通じない経験をしてきた。国内にも外国籍の人は暮らしている。まずは、毎日使う言葉から国際感覚を養うことが必要ではないだろうか。