廃プラスチックから水素と炭素繊維「カーボンナノチューブ」をつくり出す新技術が昨年、論文で発表された。水素はエネルギー源として、カーボンナノチューブは軽量で強度が高い新素材として注目される。技術の進展には期待したいが、逆にプラ削減の動きを鈍らせる懸念も感じる。(オルタナ編集委員・栗岡理子)
廃プラを「チン」すると水素と高機能材料に
プラスチックは主に多くの炭素と水素がつながってできた高分子化合物だ。昨年10月、『Nature catalysis』に掲載された論文(Jie et al.)によると、プラスチックに含まれる水素の97%を取り出せるそうだ。しかも残った炭素の塊の9割はカーボンナノチューブだという。
水素は直接燃料のほか、燃料電池や燃料電池車(FCV)に使用できる。「2050年カーボンニュートラル」の実現のためにも必要だ。
カーボンナノチューブは軽量で強度が高い新素材として期待される。木質からつくる「カーボンナノファイバー」と同様、乗用車や航空機の軽量化や、それに伴うエネルギーの削減が期待できる。
この技術について、早稲田大学理工学術院・創造理工学部の大河内博教授(環境化学)に聞いた。
「プラスチックを、安価な酸化鉄と酸化アルミニウムの触媒複合材料とともにマイクロウエーブ照射することによって、数分で水素とカーボンナノチューブに分解するということ。簡単にいえば、電子レンジでチンすると、廃ブラスチックから水素と高機能材料ができるのは驚きだ」(大河内教授)。
まるでごみが宝に変わるような良い話だが、本当に実用化されるのだろうか。
「この技術は、紫外線吸収剤や難燃剤などのプラスチック添加剤、プラスチックが環境に放置された際に吸着したPOPs(残留性有機汚染物質)や重金属などの有害物質がどの程度除去できるのか、まだ分かっていない。実用化には時間がかかるかもしれないが、廃プラスチックを環境に放出しない、焼却しない、埋め立てないための手法として期待できそうだ」(同教授)。
まずはプラスチックを知り、行動を変えること
しかし、心配もある。後でリサイクルできるからといって、使い捨てプラ製品が増えれば、リサイクルに回らないプラも増え、温室効果ガスの排出量が増える懸念もある。
そうならないために、大河内教授は「企業のみならず、消費者の行動変容が必要だ。まずは消費者が、プラスチックがどこに使われているのかを知ること。そして、プラスチックでなくてもよいものは置き換えていくことが重要だ」と指摘する。
「このような行動をしてもプラスチックを無くすことはできないが、廃プラスチック量の削減には繋がると思う。その上で、廃プラを処理する技術開発が重要になる」(同教授)。
プラスチック削減は喫緊の課題だが、リサイクル技術もまだ発展途上だ。このような技術の進展には期待したい。