ミャンマーの軍事クーデターから半年、日本企業が正念場を迎えています。政情不安でビジネスに支障が出る一方で、国軍の人権侵害に対する反対の意思表明がないことで、人権意識の希薄さが国内外で批判されているからです。折しも日本では名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性、ウィシュマさんが死亡する事件が発生、わが国の「人権後進国」ぶりが浮き彫りになっています。日本企業は何をすべきでしょうか。
キリン、減損損失214億円計上
ミャンマーの軍事クーデターに翻弄されている日本企業といえば、キリンホールディングスが代表格でしょう。このほど発表した業績見通しでミャンマー・ブルワリー社(MBL)に関連し第2四半期に減損損失を214億円計上したことを明らかにしたのです。コロナ蔓延も大きかったのですが、合弁相手が国軍系のMEHPCL(ミャンマー・エコノミック・ホールディングス・パブリック・カンパニー・リミティッド)だったことで不買運動の標的になったことも影響したといわれます。
国軍に足を引っ張られた格好ですが、それでは、キリンは人権問題に無関心な企業だったのでしょうか。事実はむしろ、その逆で、2013年、磯崎功典社長が、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授が提唱したCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)という理念に感銘を受け、これを経営に採用しました。経済的価値と社会的価値を両立させる経営で、SDGsやESGの優等生、先進企業なのです。東日本大震災の復興時に風評被害にさらされていた福島産の桃を「キリン氷結」に使い農業支援につなげたのはいい例です。
ミャンマー進出に当たっては国軍に関して神経を使ったのは当然でしょう。2011年に民政移管したものの、経済は軍が牛耳っていました。2015年11月の総選挙でアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝しますが、軍はこれを受け入れます。米国はこれを評価し、2016年それまで続けていた制裁を解除します。キリンをはじめ多くの日本企業が大挙して「アジア最後のフロンティア」に足を踏み入れたのは、ちょうど、その直前、民主化が安定し始めたあたりからです。