アンコンシャス・バイアスとは、無意識の思い込みのことをいい、個人が過去に経験したさまざまな事柄から、本人も気がつかないうちに刷り込まれていく意識のことを指す。「女性だから家庭優先。責任のある役職は荷が重いだろう」とか逆に「男性なのだから、仕事を第一にすべきだ」などジェンダー平等の弊害の原因として語られることも多い。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

アンコンシャス・バイアスが自分の中にあるかを測るためのこんな問題がある。

父親が子どもを乗せて運転していた車がトラックと正面衝突。父親は即死、後部座席の子どもは意識不明の重体。子どもは病院に搬送され、脳手術をすることに。執刀医は、海外でも高名な脳外科の権威。ところが、この脳外科医は手術室に横たわる子どもを見て、こう叫んだ。「この患者は私の息子なので、私には手術できない」さて脳外科医と患者の関係は?(出典:千野帽子著「人はなぜ物語を求めるのか」)

答えは「脳外科医は患者の母親」。「海外でも高名な脳外科の権威」である医師=男性であるという無意識の思いこみ、つまりアンコンシャス・バイアスがあると少し考えこんでしまうかもしれない。アンコンシャス・バイアスは、日常のさまざまな場面に潜んでいる。そして昨今広告はそれを増幅させる存在として批判され、炎上もする事例が増えてきている。

■女性=運転が苦手というアンコンシャス・バイアス

2019年にトヨタ自動車がオフィシャルツイッターに投稿した「女性ドライバーの皆様へ質問です。やっぱり、クルマの運転って苦手ですか?」というアンケートが投稿直後から批判が殺到。トヨタは投稿を削除し、謝罪する事態に発展した。

SNS上の批判で多く見られたのは「やっぱり」という表現への批判。このひとことに「女性=運転が苦手」という女性への偏見が潜んでいることへの異議だった。質問の答えの選択肢も「とても苦手」「少し苦手」「どちらでもない」「得意です」の4択で、苦手の選択肢が多いことへも同様の批判が多く集まった。 

SNS時代の広告表現

このように企業の広告が、取り下げや謝罪に追い込まれるケースの多くはSNSが着火点になっている。一部の批判的投稿が拡散し、インフルエンサーも言及しはじめ、最終的にはマスメディアなどでも取り上げられるまで広がっていく。SNSが普及し誰でも指一本で世の中に発信できるようになった今は、広告ターゲット以外の人にも見られているという意識が今まで以上に重要になってくる。

広告はアンコンシャス・バイアスを打破する推進力にも

UN Women(国連女性機関)は、広告が社会に持つ影響力を使いジェンダー平等や女性のエンパワーメントを実現していくための「アンステレオタイプアライアンス」を2017年に設立した。その中で広告表現の気をつけるべきポイントとして、「3つのP」を提言している。

「Presence(存在)」

私たちが実際に住む社会のように男性や女性を含め、多様な人々が描かれているか。

「Perspective(視点)」

登場人物を性的な対象物として描いていないか。誰かに都合のいいイメージや役割を押しつけていないか。

「Personality(個性)」

女性ならスリムでか弱い、男性なら背が高く強いなど、ステレオタイプな外見や特徴を押しつけていないか。

アンステレオタイプアライアンスは、世界最大級の広告祭カンヌライオンズにステレオタイプを打破する審査基準を設けるなどの成果を残している。カンヌライオンズでは2015年から、性差別や偏見を打ち破る広告表現を表彰する「グラスライオン」部門も設けられた。

第一回グラスライオンの審査員長は「クリエイティブの力には生活者の行動に影響を与えるだけではなく、社会や文化を変える力を持つ」と語っており、ジェンダー平等の達成やアンコンシャス・バイアスの打破への広告クリエイティブの可能性が、2015年当時から示唆されていることがうかがえる。

これをすれば絶対に炎上しないという正解はなく、常にジェンダー感覚や社会感覚をアップデートしつづける必要がある。自分にもアンコンシャス・バイアスはあるかもしれないという自覚をもちつつ、広告クリエイティブはチャレンジをする気持ちを持ちつづけて欲しいと願う。とかく炎上ばかりが注目されがちな分野だが、広告は人をエンパワーできる力も確実にもっているのだから。