ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相がフェイスブック(FB)を活用するなど、国民との間で新しい形のコミュニケーションを展開している。首相として重要な発表を行う時には、FBライブで国民と直接対話もする。国民との距離を縮めようとする首相の姿勢への信頼は健在で、支持率は55%(2021年9月時点)を維持している。2020年10月の総選挙で、首相率いる労働党が圧勝したのも、こうした国民との信頼関係が背景にあった。(ニュープリマス=クローディアー真理)

アンダーン首相(中央)Nevada Halbert (CC BY-ND 2.0)
アーダーン首相(中央)Nevada Halbert (CC BY-ND 2.0)

約17分というライブの間、次々に寄せられる国民からの質問にひとつひとつ答えていった。内容は多岐にわたり、国境封鎖、ビザの期限切れの対処法、家賃の支払い、物価の高騰など。首相はどんな質問にもテキパキと、それでいてわかりやすく答えていた。

質問者の名前を呼びかけることもあり、人々は首相により親しみを持ったに違いない。締めくくりには、近所の人、特に年配者に配慮するように頼み、感染を広げないために、自宅隔離をしていることが、国民の今の仕事だと念押しをした。

この時のFBライブのビュー数は540万を超えた。ニュージーランドの人口が乳児や幼児も含めて約500万人であることを考えると、海外でも見ていた人がいたようだ。

5万件以上のコメントも寄せられ、多忙を極める首相へのねぎらいや感謝の言葉が多かったほか、子どもが首相を、「ニュージーランドのお母さん」と呼んでいることを伝える人、今までで最も素晴らしい首相と絶賛する人と、国民は自分が抱く、首相に対するさまざまな思いでコメント欄は埋まっていた。オーストラリアからは、「オーストラリアに来て、首相になってください」と頼む人が多く見られた。

アンダーン首相のFBライブ
アーダーン首相のFBライブ(クリックするとFBに飛びます)

コロナ禍で「自分に優しくしてください」

2021年に入ってからは、8月17日にオークランドで市中感染者1人が確認・公表され、その約6時間後に全国的なロックダウンに入った。市中感染なしに約170日間になろうという時で、国民はコロナ以前に近く、自由だった暮らしを、突如、前回より制約が厳しいロックダウンに即した暮らしに切り替えなくてはならなかった。

ロックダウン初日の8月18日の朝、アーダーン首相はFBライブを行っている。首相が隙間時間にFBライブを行うのは珍しいことではない。2020年も、車での移動中など、まさに仕事の合間を縫って、FBライブを通してこまめに国民との対話を行ってきたからだ。この日の朝も同様だった。

送られてくる質問に約10分間にわたって答え、最後に「お互いに親切にしてくださいね」と働きかけた。これはコロナ禍に置かれるようになってから、首相が常に心に留めるよう言っていることだ。

さらに今日はもう1つ、「自分に優しくしてください」というメッセージが加わった。全国的なロックダウンは初めてのことではない。しかし、今回のロックダウンは人々の心に負担をかけているという話はよく言われる。これはロックダウン2日目のFBライブでも繰り返された。

8月27日のFBライブでは、ロックダウンによる制約が今回特に厳しいことを挙げ、人々にとって大きなストレスとなっていることを認めている。永遠にこの状態が続くわけではなく、未来像は違ったものになること、私たちは絶対に切り抜けることができること、そして今皆で実践しているロックダウンのおかげで、状況は変わりつつあることを人々に伝えた。

「どうか諦めずに頑張り通してください。現在難局を迎えている中、皆さんがお互い助け合ってくれていることに感謝しています」とライブを締めくくった。

リーダーにはコミュニケーション力も必要

2019年3月に起きたモスク銃撃事件の際のアーダーン首相。「被害者とその家族の気持ちを理解する首相」と、各国から賞賛の声が上がった (C)Kirk Hargreaves (CC BY 4.0)
2019年3月に起きたモスク銃撃事件の際のアーダーン首相。「被害者とその家族の気持ちを理解する首相」と、各国から賞賛の声が上がった (C)Kirk Hargreaves (CC BY 4.0)

グラスゴー・カレドニアン大学を含む、スコットランドの4つの大学のコミュニケーションの専門家が、2020年3月から4月に首相が行った40以上のスピーチや国民との会話を分析。ウイルスの脅威に対してアーダーン首相がとった初期の危機管理コミュニケーション手法を検証し、研究論文を発表した。

それによれば、非公式な場、FBライブなどで、重要な情報やメッセージを直接国民に伝え、対話や質疑応答を行ったおかげで、国民にとって首相は身近な存在になったという。人々はやりとりからにじみ出る誠実さと思いやりを感じ取った。そんな首相による協力の呼びかけだからこそ、人々はエンパワーされ、結束するに至ったと分析されている。

グラスゴーカレドニアン大学の人材開発学の准教授であり、この論文の著者の一人であるデビッド・マクガイヤー博士によれば、コロナのパンデミックで、各国リーダーの指導力とコミュニケーション力が試されたという。

コロナへの対応策を生み出すのには、周到な計画を立て、準備を行うスキルだけでなく、指導力とコミュニケーション力が要されるという。またソーシャルメディアは、国民と直接コミュニケーションをとるための絶好の場だとも強調した。

世論は首相の味方

20年11月の新閣僚任命式で。左からアーダーン首相、グラント・ロバートソン副首相、デーム・パッツィー・レディー総督 (C) Governor-General of New Zealand (CC BY 4.0)
2020年11月の新閣僚任命式で。左からアーダーン首相、グラント・ロバートソン副首相、デーム・パッツィー・レディー総督 (C) Governor-General of New Zealand (CC BY 4.0)

2020年10月に行われた総選挙は、アーダーン首相率いる労働党が単独過半数を獲得し、圧勝した。別名「コロナ選挙」とも呼ばれていた。コロナの采配が勝敗に大きく影響した選挙だった。

2021年8月中旬のデルタ株によるロックダウン時に行われた世論調査が9月15日に発表になった。市場調査会社UMRリサーチによるもので、労働党の支持率は45%、アーダーン首相の支持率は55%だった。

同調査では約3分の2の人が、政府のコロナへの対応を「良い」と評価している。2021年に入ってからの一時70%台だったころと比較すると割合は下がっているが、国内ではこれでもまだ堅調だといわれている。

国が正しい方向に進んでいると思う人は67%で、2021年3月と比較した場合、5ポイント上昇。反対に間違った方向に進んでいると考える人は約3分の1から、4分の1に減少している。

各メディアが2020年のロックダウン後に行っているべき、次の感染拡大への準備を政府が怠ったと非難する一方で、世論は依然としてアーダーン政権とそのコロナ対策を評価している。今回のロックダウン初日のFBライブのビュー数は約150万。首相との対話を望む人はまだまだ多い。