※この記事は2021年9月30日に発売する雑誌オルタナ66号「2035年のモビリティ」の先出し記事です。オンライン有料会員SBLに入会されると、本誌も無料でご自宅やオフィスに郵送します。

EUをはじめ世界各地でガソリン車規制が相次いで発表され、自動車の電動化が加速している。だが、最終ゴールである気候変動の抑制に対し、選ぶべき手段は電動化だけで良いのだろうか。「2035年のモビリティ」を提案する。(自動車ジャーナリスト=清水 和夫)

(右上から時計回り)ロールスロイス103EX。100年後を意識してデザインされた完全自動運転EVのコンセプトカー。レクサスのEVコンセプトカー
「LF-Z Electrified」。ドローンが自車位置前方を照らす自動運転「レベル4」の「Audi AI:TRAIL quattro」。メルセデスベンツの「ヴィジョンAVTR」。映画
「アバター」のグローバルパートナーシップの成果として製作された自動運転EVのコンセプトカー

東京2020オリンピック・パラリンピックが終わった。静けさを取り戻した都心にセミの鳴き声が響き渡る。アスリートたちの活躍は感動以外の何ものではないが、ある競技を見ていたとき、新しい感動の芽が生まれたことに希望が持てた。

それは、女子スケートボードだ。15才の女の子が難易度の高い技に挑戦し、最後の最後で転倒し結果は4位に終わったが、ライバルの選手たちはすぐにその子を抱き上げ、勇気ある技を讃えた。

きっとこの世代の若者にはメダルや国境は関係なく、スポーツを愛する仲間の絆という意識がしっかりと根付いているのだと思った。

残念だったのは、TV各局がメダル数や色にこだわり、日本さえよければ良いという安易なナショナリズムで報道したことだった。例えば、男子ゴルフでは、銅メダルを取れないと分かった瞬間に画面を切り替えるという公共放送もあった。こうした古い考えはやがて消え去ると思うが、分断と差別のないコミュニティーを大切にするという若い世代の活躍は、明日につながると思った。

今号の特集は、カーボンニュートラル時代における「2035年のモビリティ」だが、想定したシナリオは従来からの延長線ではなく、全く新しいモビリティの価値をいかに創造できるのかということをテーマに据えてみた。

そこで、日本の経済成長とエネルギーの関係を少し触れておきたい。昔からいわれてきたことであるが、国民一人当たりのGDPと年間移動距離には相関性があり、航空機が発達している米国は突出している。日本は狭い国土に1.2億人の人口がひしめく他に類を見ない密度の中で、移動の効率を高めることで何とかGDPを維持してきた。

その意味では、日本中に網羅される新幹線や高速道路ネットワークは重要な日本のインフラなのである。日本の戦後復興は奇跡ともいえるほど急成長したが、その背景には安定したエネルギーが供給されてきたことは忘れられがちだ。

ご存じの通り、日本はエネルギーの資源国ではなく、その多くを輸入石油(天然ガスも含む)に頼ってきた。1970年代後半に生じたオイルショックが日本を襲ったとき、一滴の石油も無駄にできないという考えが、「省エネ思想」として身に付いている。その文脈ではカーボンニュートラル時代は、まさに日本の時代となれるはずだった。

「脱化石」路線、日本の行方は

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ヨーロッパを中心に、気候変動を食い止めようという流れが加速している。欧州委員会は2021年7月に、2030年の温室効果ガス排出量を1990年比で55%減らすための政策パッケージ「Fit for 55」を発表した。

2035年までに内燃エンジン車の新車販売禁止を求められた自動車業界だけでなく、海運や航空などすべての産業に「脱化石燃料」が要求される。地球温暖化防止のため、もはや電動(EV)化は既定路線のようだ。日本はこの流れに対応できるのか。

しかし、実は欧州の足並みも揃っているとは言いがたい。今、国としてエンジン車の販売禁止を明確に打ち出しているのは英国とフランスくらいで、冒頭の「Fit for 55」も欧州委員長の案に過ぎない(上図参照)。

各国が今後それを持ち帰って法制化するかは未知数で、産業界からはすでに反発も起きている。いまだ混沌とする気候変動対策のルール作りについて、本稿ではEUの選択をいったん「疑ってみる」という前提でシナリオを描いてみる。

というのは化石燃料からの脱却といえば、欧州はとかくBEV(バッテリー電動自転車)の普及にエンジン車の販売禁止など、「電動化」一辺倒だが、最終ゴールである気候変動対策に対し、選ぶべき手段はそれで正しいのか。

その上で、地球温暖化を食い止めるために日本が果たすべき役割と、モビリティ業界に何ができるのかをもう一度考えてみたい。