サナテックシード社がゲノム編集商品に表示しているマーク(中央)。現在はウェブ直販のみ

ゲノム編集による新品種が昨年末のトマトに続き、今年9月にマダイ、10月にトラフグと相次ぎ、厚生労働省への届け出を済ませた。許可制ではなく届け出(情報提供)だけで表示も義務付けられず販売できるゲノム編集食品とは何か。届け出第1号となったハイギャバトマトを開発したサナテックシード(東京都港区)に話を聞いた。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)

品種改良にかかる時間を大幅に短縮

同社管理部の住吉美奈子氏はゲノム編集について、「だんだんとゲノム(全遺伝情報)の配列が読めるようになり遺伝子の機能の研究も進む中で、ゲノム編集技術が現れた」と語る。

人類は長年、野生生物を対象に選択と交配を繰り返し、毒があったり実が小さかったりした種から作物を作り出してきた。2012年に発表され、のちにノーベル賞を受賞したゲノム編集技術・CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)は、こうした品種改良にかかる時間を一気に縮めた。

「交配では成し得ない青い色のバラなど、他の生物の強みを入れるのが遺伝子組み換え。一方、ゲノム編集はもともと生物が持っているものをチューニングする技術」と住吉氏は説明する。

大学と種苗会社のタッグで実現

サナテックシードを創設した江面浩筑波大学教授(現・同社取締役最高技術責任者)の研究室出身の住吉氏によると「望む性質を得るにはその親世代のゲノムを編集する必要がある。でも種苗会社にとって親種は非常に大切で、なかなか提供してくれる企業がなかった」という。

江面教授の研究室に、中玉トマト「シシリアンルージュ」の親種を提供したのがパイオニアエコサイエンス(東京都港区)だった。1984年に日米合弁で設立、2015年から100%日本資本となった同社は、クリスパー・キャスナインの特許を扱うコルテバ社からサナテックシードが商用技術ライセンスを受ける際に仲介した。

パイオニアエコサイエンスのCIO(最高イノベーション責任者)で、現在はサナテックシードの社長を兼ねる竹下心平氏は、「信頼する米企業から新技術の評判を聞くと同時に、多方面から江面教授の研究を紹介され、2017年頃に教授に協力を申し出た」と振り返る。これが2018年のサナテックシードの設立につながる。

ゲノム編集の届け出第1号となった新品種「シシリアンルージュハイギャバ」は、ギャバ合成酵素の抑制に関わる遺伝子をピンポイントで壊し、ギャバ含有量を4、5倍に高めたトマトだ。行政との1年を超える相談を経て、2020年12月に環境省、農林水産省、厚生労働省に届け出た。「おいしさはそのままで栄養価値を高められたのは、ゲノム編集の良さだ」と竹下氏。無償苗モニターの募集には応募が殺到し、5000人で締め切ったという。