牛の糞尿や食品残さなどからメタンガスを取り出し、発電などに使う「バイオガス発電」は、循環型経済のモデルとして、欧州などで先行している。日本でも取り組む企業や酪農家はあるものの、シェアは再生可能エネルギー全体の1%に満たない。世界でも日本でも「脱炭素」政策が急速に進むなか、何が障壁になっているのか。北海道の牧場を取材した。(オルタナ副編集長・松田慶子)

北海道・大雪山の南麓に位置する友夢牧場(上川郡新得町、植田昌仁社長)を訪れた。飼養する乳牛は1600頭に上る。牛舎の周りには、直径21㍍の発酵槽の上にガスホルダーが重なり、発電装置につながる。少し離れて発酵後の「消化液」を溜める直径40㍍の貯留槽が設置されている。これで「バイオガス発電」をするのだ。

牛舎の間に溜めた排泄物が発酵槽に送られるところから、発電が始まる

1600頭もの牛の糞尿が発酵槽のなかでブクブクと泡立ち、発生したメタンガスが大きな風船状の袋にたまる。ガスは脱硫装置を通り、発電機へ送られる。発電機を冷やした温水はビニールハウスに送り、メロンやバナナの温室栽培に役立てる。

牧場敷地内にあるバイオガス発電プラントは2016年4月に稼働し、今は最大450kwh/時発電する。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)による売電収入は年間8000万~1億2000万円に上る。

排泄物が発酵する様子。発生したメタンは上部の大きな袋にたまっていく

湯浅佳春会長は「とにかく糞尿処理をなんとかしたかった」と話す。乳牛の排泄物はたい肥として畑に散布してきたが、年間5000万円を超える処理費用やにおいの問題に長年悩まされてきた。手間とコストを下げ、これらを有効活用できる方法を検討する中で、バイオガス発電に出会った。

導入には「原料となる糞尿を安定的に確保することや、「消化液」という発酵後に残る液体の処理が課題」(湯浅会長)。「消化液」は良質な液肥ではあるが、散布する畑がなければ処理や販売先を確保しなければならない。友夢牧場の場合、当時すでに約1000頭の乳牛がいたこと、飼料用の畑もあったことから導入に踏み切った。

バイオガス発電は、「バイオマス発電」の一部に含まれるが、再生可能エネルギー全体の1%にも満たない。バイオガス発電の原料は大きくは食品残さ、家畜糞尿、下水汚泥などがあるが、下水汚泥の多くは下水施設を所有する各自治体が運営している。

食品残さや糞尿は処理のためにコストが掛かる。そのコストをバイオガス発電の売電によって削減できれば、メリットは大きい。

ただ普及にあたっては課題も多い。自社でプラントを設置する場合は「原料の安定的な調達と、残さの処理」そして業態や規模によっては「許認可」が必要になること、さらに場所によっては近隣住民との「においの問題」などを解決しなければならない。

FITの申請件数ベースでみると、全国のバイオガス発電所の約3分の1を北海道が占めている。もともと酪農家が多くふん尿やにおいの問題を抱えており、周囲に農地が豊富で、残さの処理も比較的しやすい環境と考えられる。

それでも酪農バイオガスの場合、原料の調達から残さの処理までを、友夢牧場のように一軒で完結できる大規模農家はごく一部だ。100頭以下の小規模農家向けの発酵プラントの開発なども進むが、大部分の農家にとってはまだハードルが高い。隣町の川東郡鹿追町では、町役場がバイオガス発電プラントを運営し、小規模酪農家のふん尿処理を支援している。

これに加え新規プラントの設置には、設備規模や業態によって「廃棄物及び清掃に関する法律(廃掃法)」14条と15条で許認可が必要となる。許認可を受けるには現地の調査、行政との打ち合わせ、建築基準法第15条但書許可や生活環境影響調査などで膨大な手間が掛かる。数年かかることも珍しくないという。

そもそもバイオガス発電が廃掃法15条に該当するかどうかについて、バイオガス発電の技術支援を行う「ジャパン・バイオガス・インスティテュート」(仙台市泉区)の早坂俊彰社長は「(15条に)準じた施設ではあるが、該当はしない」と見ており、環境省にバイオガス施設についての規制緩和を求めている。

ドイツでは、バイオガス発電は再生エネの2割近くに達する。小規模発電へのFIT価格の引き上げや、中小規模の農家も利用しやすい金融支援の仕組みがあることから、農家が数軒で共同出資することも多いようだ。

バイオガスで発電した廃熱を利用して栽培したメロン。友夢牧場の湯浅会長は「酪農は限りなく循環型。より持続可能なあり方を考え地域に貢献したい」と話す

友夢牧場の湯浅会長は「酪農はもともと、自然の恵みで動物を育て自然に返す、限りなく循環型の産業だ」と強調する。牛の糞尿や副産物もあまさず活用できるバイオガス発電を通じて、「より持続可能な酪農のあり方を考え、地域に貢献したい」と話した。