日本でも拡大、地域で有機農業支える「CSA」とは

京都大学農学研究科生物資源経済学専攻はこのほど、オンライン公開講座「農業を買い支える仕組みの創り方――CSAの普及を考える」を開いた。CSAは、農業生産者と消費者が互いに支え合う取り組みで、「コミュニティーが支える農業」「地域支援型農業」と呼ばれている。日本ではどのようにCSAが実践されているのか。(実生社・越道京子)

コミュニティーが支える「CSA」とは何か

日本ではこれまでも、生産者と消費者とを結び付ける運動は存在していたが、CSAはどのような点で新しく、どのように広がっているのだろうか。京都大学農学研究科の辻村英之教授は、CSAの特徴として次の3点を挙げる。

1.全量買い取り
2.事前決済・前払い
3.所得保障

生産者に対して持続的に生産可能な売上を消費者が保障し、その資金で自分の代わりに生産してもらうという考え方に基づくものだという。

1970年代以降に有機農業運動の実践形態として各地で展開された「産消提携運動」は、のちに米国で始まったCSAに直接影響を与えていないものの、世界のCSAの源流の一つとされている。

波夛野豪・三重大学名誉教授(CSA研究会代表)は、「産消提携とは、文字通り、生『産』者と『消』費者が直接につながりあい、連携することである。四大公害や食品公害の被害に目覚めた消費者が生産者に働きかけるかたちで、直接アプローチを開始した」と説明する。

「真摯な学習会の広がりや先駆的な生産者との出会いによって、自分たちのニーズをみたす有機農産物を提供してくれる農業者からの直接購入を軸に、産消提携運動は拡大していった」(波夛野教授)

CSAは1980年代後半に米国の農場で提唱され、現在では同国内の7000以上の農場で行われているという。欧州ではフランス、スイス、イギリス、スペイン、アジアでは台湾、韓国、中国などで広がりをみせている。

米国の有機農業家であるエリザベス・ヘンダーソン氏の著書によると、CSAの分類は以下のようになるという。

1.消費者コミュニティーが農場の運営に深く関与する消費者参加型農場
2.会員が生産物を受け取るだけの予約購入CSA
3.その中間型(大多数を占める)

(『CSA 地域支援型農業の可能性』2008年、家の光協会より)

つまり、CSA農場の会員となったメンバーが、出資者として意思決定に関与したり、定期的な援農をしたりして農産物を受け取るスタイルと、会員は代金を前払いして農産物セットを購入することで生産者の生活を支援するスタイルがあり、実際にはそれらのスタイルが混合されて運営されていることが多い。

従来の「産消提携」と「CSA」の大きな違いは

従来の産消提携などとの大きな違いはどこにあるのだろうか。

それは、シェアの対象が「収穫物」だけでなく、生産プロセスにおける「リスク」も含めてのものである、というところにある。CSAの会員は有機栽培された高品質な収穫物をシェアでき、農業にかかわる機会を得るというメリットがあるが、不作のときの補償はない。

つまり、通常の取引の場合、不作は一方的に生産者の所得の減少となるが、CSAではそのリスクを消費者も負うことになる。

会員は1年を通じて、良いときも悪いときも、生産者と対等な立場で支え合う。「前払い」を受けることにより、農場を維持するコストや不作によるリスクを会員間でシェアする仕組みなのである。

日本で広がるCSAの輪

公開講座では、経営にCSAを取り入れ、消費者と生産者を直接つなぐ取り組みを開始した若手有機農業家の取り組みも紹介された。

1)ビオクリエイターズ(兵庫県神戸市)

神戸市西区の有機農家4軒を中心に結成するビオクリエイターズは、定期的に季節の野菜パックを前金制で提供する「CSA FARM SHARE」コースを用意する。種や苗を購入し作付けするための費用として会員から数か月分の代金を前金で預かり、収穫した野菜を定期的に取りに来てもらうという仕組みだ。

現在、普及しつつある農産物セットの購入との違いは、あくまでも前払いである点である。農場は安定した収入を得ることで計画性のある運営ができ、有機農家になりたい新規就農者の支援が可能となる。

消費者は金額以上の野菜を受け取れることも、また有精卵や有機ワインなど特別栽培された農産物をわけてもらえるチャンスもある。前払いというリスクはあれ、会員になることでメンバー同士がSNSで交流したり、食材や旬についての知識を深めたりと得るものが多いという。

野菜を会員が持ち帰る拠点(ピックアップステーション)を企業やカフェに設けて受け渡しをする「オフィスCSA」や「カフェCSA」の取り組みも東京や神戸などで進めている。

大皿一寿代表は「ピックアップステーションに一括して農産物を届けることで、会員へスムーズに受け渡すことができる。今後の広がりの可能性を感じている」と話す。

「CSA FARM SHARE」コース
「CSA FARM SHARE」コース
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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #オーガニック#農業

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