環境問題の解決に向け貢献をした研究者に贈られる地球環境国際賞「ブループラネット賞」。先日ノーベル物理学賞を受賞された真鍋淑郎博士を皮切りに、世界的に重要な研究を行なってきた方々を顕彰してきました。2021年の受賞者のひとりは、1975年にCFCs(いわゆるフロンガス)による温暖化効果を発見し、CO2以外の温暖化物質の存在を世界に知らせたヴィーラバドラン・ラマナサン教授です。教授は、「この先30年の温度上昇を2℃より抑えるためには、CO2と同時に代替フロン(HFCs)を含む短寿命気候汚染物質SLCPsの排出をゼロにすることが唯一の解決方法」と語ります。(旭硝子財団)

各国が対策を急ぐ代替フロン・HFCs

ヴィーラバドラン・ラマナサン教授

地球温暖化問題の解決に向け、各国が代替フロン・ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の対策に乗り出しています。HFCsは、エアコンや冷蔵庫などの冷媒として使用されている化合物です。

「代替」の名称からもわかるように、もともと冷媒に使われていたのはクロロフルオロカーボン類(CFCs)、日本ではフロンガスとして知られている物質でした。

しかし、CFCsは成層圏で分解してオゾン層破壊につながり、同時にCO2の1万倍もの温室効果があることがわかり、1987年採択のモントリオール議定書によって国際的に規制されることに。ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)を経てHFCsが冷媒として普及しました。

しかし、オゾン層への影響のないHFCsにも温室効果があることから、2016年モントリオール議定書の「キガリ改定」によって規制が決まりました。批准国は2036年までにHFCs排出量の85%削減が求められています。

2021年9月には、米環境保護庁(EPA)がこの改定に沿って、今後15年でHFCs 85%削減を発表しました。日本では、現在販売されている家庭用冷蔵庫はほぼすべてノンフロンの冷媒が使用されていますが、エアコンや業務用冷蔵庫では使用され続けています。HFCsの規制や回収を義務付ける法律はあるものの、現状その排出量は増加し続けており(※)、より実効性のある対策が急がれています。

短寿命気候汚染物質SLCPsの削減が温暖化抑制に必要

2100年までの気温上昇予測のグラフ(ラマナサン教授提供)

カリフォルニア大学のヴィーラバドラン・ラマナサン教授(米国)は、CFCsの強い温室効果を発見し、その後数十年に渡り、CO2以外の温室効果を持つ物質を研究してきました。

教授が力を入れてきたのが「短寿命気候汚染物質(SLCPs:Short-Lived Climate Pollutants)」、HFCsのほか、メタン(CH4)、対流圏オゾン(O3)とブラックカーボン(BC・いわゆる煤)が気候変動に与える影響の研究です。

「HFCsの大気中での平均寿命は約10年、メタンは約11年、オゾンは数カ月です。ブラックカーボンはガスではなく微粒子のため、地球からの熱は取り込みませんが、太陽からの熱を吸収し温暖化を進めます。その寿命は数週間未満ですが、大気汚染物質であり、毎年何百万人もの人が亡くなる原因となっています。対してCO2は、大気中に排出されると50%ほどが約100年残留、20%ほどは約1000年残留します」

ラマナサン教授は、地球温暖化の問題においてCO2にばかり焦点が当てられてきたことに警鐘を鳴らし続けています。CO2は主要な温暖化物質ですが、SLCPsは、短寿命で、かつ温室効果が極めて高いという特性も持ちます。

CO2の温暖化の効果を1とした場合、メタンはその25〜100倍、ブラックカーボンは500〜2000倍、HFCsは2,000倍も強力な温暖化効果を持つそうです。

「このまま世界が何も対応しなかった場合、2040年には気温の上昇は2℃を超えるでしょう。CO2を今から減らし、2050年にカーボンニュートラルを目指しても、温度上昇の予測曲線はこの先30年下降せず上昇し続けます。CO2が長寿命だからです。対して、SLCPsの排出を今から抑えれば、すぐに大気中から減っていくため、5〜10年の間で気温上昇を抑えられます。この先30年の間の温度上昇を2℃以下に抑えるには、CO2とSLCPsの排出をゼロにするしか方法はないのです」

2021年ブループラネット賞受賞者・ラマナサン教授のインタビュー全文は、旭硝子財団の発行する「af Magazine」にてご覧いただけます。

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日本のHFCs排出量は2005年以降2019年度測定値まで増加し続けている。参考:2021年4月26日環境省フロン対策室、経済産業省オゾン層保護等推進室資料