自然資本の利子で生活の持続性を:藻谷 浩介

雑誌オルタナ68号(3月31日発売)の先出し記事です。68号では「戦争と平和と資本主義」をテーマに9人の有識者に寄稿頂きました。68号に掲載した記事をオンラインでも掲載します。

国際情勢が不安定さを増すなかで、資本主義はどうあるべきか。『里山資本主義』の共著者・藻谷浩介氏は「循環再生」を軸にした「脱・成長」の資本主義を提唱する。

藻谷 浩介(もたに・こうすけ)
山口県生まれ。平成合併前の全3200
市町村、海外114カ国を自費で訪問
し、地域特性を多面的に把握。地域振
興、人口成熟問題、観光振興などに関
し研究・著作・講演を行う。 著書に『デ
フレの正体』、『里山資本主義』など。
©青木優佳

地球環境問題の深刻化の中で、「新しい資本主義」が言われるようになった。しかしその定義や目指すところには、人によって違いがある。新書『人新生の資本論』の著者・斎藤幸平氏によれば、欧州では、ドイツなどの政府や経済界の進める「グリーン資本主義」と、グレタ氏の主張に代表される「脱・資本主義」、という対立軸が鮮明になっている。

「グリーン資本主義」は、CO2排出抑制のような環境保全行動と、経済成長は両立可能という考えだ。これに対して「脱・資本主義」は、「経済成長を目指す資本主義原理そのものが、環境を破壊し人類の存続を難しくする元凶だ」と見る。先進国の経済成長は物言わぬ周辺部(途上国や地球環境など)からの搾取で成り立っており、「持続可能な経済成長」は地球全体で見ればまやかしだという彼らの指摘は、説得力に満ちている。

ところで筆者は、2013年に話題になった新書『里山資本主義』の共著者の一人だ。「里山資本主義は、成長を目指すグリーン資本主義なのか、脱・資本主義なのか」と、問われるなら、「どちらでもない」と答えよう。里山資本主義は、「脱・成長」の「資本主義」だからだ。

成長の強迫観念持続性損なう

里山資本主義者は「成長」ではなく、「循環再生を通じた経済社会の長期的な持続」を目指す。「脱」であり「反」ではないので、結果として金銭換算上の経済成長が起きてもいいのだが、起きなくてもいいし、計算上は経済が縮小していても構わない。

「GDPさえ増えていれば(経済が成長すれば)一人ひとりが幸せになる」などという、アバウトな総括をどうして信じられようか。「毎年成長しなくてはダメだ」というのは、そもそも現実にも歴史的経験にも反したカルト的な強迫観念であり、むしろ社会経済の長期的な持続性を損なうものである。

その一方で里山資本主義者は、「市場での自由競争」「価格メカニズムによる裁定」という資本主義の基本原理を、絶対視はしないが軽んじない。

里山資本主義者としての筆者は、政府の規制も必要だとは思うが、それ以上に個々人の、ささやかな良心に基づく草の根の行動の集積の方に信を置く。つまり政府の規制だけでは解決はムリだと、最初から観念している。斎藤氏やグレタ氏からは、「そんな悠長なことでは地球環境が壊れてしまい、経済は台無しになってしまう」と指弾されるだろう。その通りであり、まことに情けない。

だが彼らほどには人間の作る政府というものの能力を信用していないので、これまでやってきたことに対して相応の天罰が下るのはもう覚悟している。そのうえで一人ひとりが、「成長」なる意味不明な強迫観念から、「循環再生」という肌感覚で理解可能なものへと、目標を切り替えることでしか、人類の長期的な存続は図れないと考えているのだ。

ゼロ金利時代自然利子増やせ

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藻谷 浩介(日本総合研究所主席研究員/オルタナ客員論説委員)

山口県生まれの56歳。平成合併前の全3,200市町村、海外114ヶ国を自費で訪問し,地域特性を多面的に把握。地域振興、人口成熟問題、観光振興などに関し研究・著作・講演を行う。2012年より現職。著書に『デフレの正体』、『里山資本主義』 (KADOKAWA)、完本・しなやかな日本列島のつくりかた(新潮社)など。近著に『進化する里山資本主義』(Japan Times)、『世界まちかど地政学 Next』(文藝春秋)。 写真:青木優佳【連載】藻谷浩介の『ファクト』で考えよう

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