頻繁に起こる風水害の影響や長期化するコロナ禍で落ち込む観光産業を立て直すため、リクルートは山梨県富士吉田市などと観光DXを目的とした実証実験に挑む。これまで同社では観光事業者向けに旅行情報サイト「じゃらんnet」で集客支援を行ってきた。今回の取り組みでは、同社の業務・経営支援サービス「Air ビジネスツールズ」で地域の事業者のキャッシュレス化を促進し、デジタル消費基盤を確立する。そして、同社保有の各種統計データを提供することで自治体や地域事業者などと「地域観光消費額の増加」を目指す。同社が特定地域に宿泊実態統計に関する情報や会計データを提供するのは今回が初だ。(オルタナS編集長=池田 真隆)
コロナ禍で打撃を受けた地域経済を回復するため、リクルートは「観光DX」の実証実験を始めた。第一弾は山梨県富士吉田市。富士山や富士急ハイランドなどで知られる同市だが、観光入込数と比べて宿泊者の割合が少ない、いわゆる「通過型」観光地としての課題を抱えていた。
国内は人口減、加えてコロナ禍で海外からの観光客も見込めない。移動が制限されるうえに、せっかく来た観光客にも通過されてしまう状況は、地元の事業者にとって死活問題だった。
そこで、地域の魅力開発・需要喚起などに取り組むリクルートの研究機関「じゃらんリサーチセンター」の木島達也研究員は2021年夏頃、同市に観光DXの話を持ち掛けた。
デジタル庁が発足したことで、各自治体では行政手続きのDX化が進んでおり、同市にとってもDXは重要関心分野の一つだった。リクルートが持つ宿泊者や決済に関する膨大なデータを活用して観光事業の変革を促す取り組みは「観光再生」を命題に掲げる同市にとって、好機だったという。
そうして双方の想いが重なり、2021年11月末、リクルートは富士吉田市と包括連携協定を結んだ。まずは、キャッシュレス化を中心とした「デジタル消費基盤」の確立を目指した。
その上で、観光関連の宿泊者情報や口コミデータに個人情報が分からない形で決済情報を掛け合わせ、自治体に提供する。これらのデータを活用して、「地域消費分析プラットフォーム」を構築し、地域の魅力開発や観光サービスの変革を起こすことを狙う。