「イクメン」という言葉がもてはやされて久しいが、日本ではいまだに男性の育児休業取得率は10%未満という現状だ。この状況に対して、2021年「改正育児・介護休業法」が賛成多数で可決・成立し、2022年4月から改正法がスタートした。男性の育児休業の取得推進を目的に制定されたものだが、男性の育児休業に対する意識や、受け入れる側の企業の体制はどこまで変わっていくのだろうか。本稿では男性の育児休業にまつわる意識や先行して取り組む海外の事例などから、日本における男性の育児休業の今後を考察していく。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

男性の育児休業が義務化?

「改正育児・介護休業法」の改正のポイントは、男性が取得可能な「出生時育児休業(産後パパ育休)」制度の新設。そしてもうひとつが、男性育休を含む育児休業制度の企業側から従業員への通知・取得促進の義務化である。

こう聞くと、男性の育児休業取得が義務化されたように捉えてしまうかもしれないが、あくまでも義務化になっているのは「企業側から従業員への通知・取得促進」である。よって育児休業を取得するかどうかは、あくまでも本人の意思に委ねられる。

しかし、いままで企業ごとにおこなっていて温度差があった、育児休業取得を促進する取り組みが、企業・性別に関係なく「義務化」されたことは意義があるといえる。

まだ意識にギャップのある男性の育児休業

20代から50代の男性を対象に実施した男性育休に関する意識調査(出典 パーソルキャリア株式会社2021年)では、仮に将来子どもができた場合、育休を取得したいと回答した人の割合は、20歳~24歳が84.6%だったのに対して、40歳~59歳では69.6%だった。

若い世代ほど希望する割合が高い傾向がみられる。そして子どものいる20代~50代男性で育休を取得しなかった人にその理由を尋ねたところ、最も多かった回答は「男性が育児休暇を取得するという考えがなかった」(26.1%)で、意識は高まりつつあるものの、まだまだ男性の育児休業が社会に根付いていないことがみてとれる。

このような意識の背景には育児休業を取得しにくい「職場の雰囲気」がある。「自分が休むと迷惑がかかる」「他の男性は休まずに働いているので言い出しにくい」という昔ながらの考えがまだ根強い職場では、制度も本人の意向もあるにもかかわらず育休を取得しづらい。

事実、男性の育児休業取得について、企業の経営者・役員クラスの4人に1人が「反対」しているという調査データ(出典 積水ハウス 男性育休白書2021特別編)もあり、制度の充実とともに男性も育児休業を取得しやすい雰囲気を企業や社会でつくっていけるかどうかが、今後の取得率アップに向けては重要だ。

「男性育休先進国」の取り組み

男性の育児休業の取得率が8割以上というスウェーデンが導入しているのが「パパ・クオータ制」。子どもが8歳になるまでに両親で合計480日間の育休を取得できる。ただし、そのうちの90日間は父親に割り当てられて(女性も同じ日数の割り当て)いて、取得しなければその部分の給付金を受け取る権利を失うというものである。

つまり男性が最低でも90日取得しないと損をする仕組みになっているのだ。この制度の普及とともに、低迷していた男性の育児休業取得率が上昇し、いまでは男性も取得することが当然という風潮になってきている。また途中の法改正で割り当て日数が伸びたことで、育休をただ取るだけではなく「長く取るべきもの」という認識も広がっていった。

フランスでは2021年から、育児休業7日間の取得が義務化。違反した企業には、1人当たり7,500ユーロ(約95万円)の罰金が科せられることになった。これまでも労働者のうち約70%の父親が育児休業を取得していた「先進国」のフランス。さらに一歩踏み込んだ政策を打ち出した背景には深刻な少子化問題がある。

政府はさまざまな対策を講じてきてきたが、父親の育児参加が本格化したのは2000年代初め頃。それまでは補助金政策が中心だったが、少子化は改善されなかった。そこで産みたくない根本的な原因となっている要素をなくす政策に舵を切り替え、男性の育児休業取得率アップも重要課題として取り組まれるようになっていったのだ。

企業の持続可能な成長のために

「休みにくい」「休まれたら困る」と取得希望者と管理職側の双方が、男性の育児休業取得に後ろ向きの雰囲気がまだ根強い日本企業だが、実は男性の育児休業取得は企業の競争力をあげるという意味でもプラスに働く。

男性の約8割が育児休業を取得したいと考えている中、育児休業を取りやすい職場環境を整えることは、社員のモチベーションのアップと同時に、優秀な人材の確保にも有利に働く。若い世代ほど男性の育児休業取得を希望する人の割合が多く、男性の育児休業に注目して就活する20代は7割を超えている。制度の充実は今後就職活動においてもますます重要になってくるだろう。

また、取得できる環境を整えるということは、フレキシブルな人材配置や配慮が必要で、より高度なマネジメント力や、組織の風土改革が必要になってくる。こうした変化への対応は育児に限らず、突発的な休業や介護休業などさまざまな社員への多様なリスクヘッジを可能にし、組織全体のレジリエンス向上へとつながる。

ユニセフが2021年に発表した報告書で、日本の育休制度は父親に認められている育休の期間が長いことなどが評価され「世界1位」になっている。実は、制度としては世界と比較しても父親がとても優遇されているのだ。制度はある。しかしこれが本当に広まるかどうかは、受け入れる企業側も変化できるかどうかが重要だ。

男性の育児休業取得は、優秀な人材の確保や競争力強化など、企業の持続可能な成長のためにも欠かせない変化である。そのことを経営層、管理職層が理解をして、形式上ではなく本当に必要だと思い、社員への取得を推進できるかどうか。それが今後の取得率アップのカギになってくるだろう。