2021年のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で主要議題の一つに挙がったのがEV(電気自動車)だ。しかし世界の専門家200名による、地球温暖化の進行を「逆転」させる100の方法『プロジェクト・ドローダウン』では、「食品ロス削減」の順位はEVよりはるかに高かった。(オルタナ客員論説委員・井出留美)
「プロジェクト・ドローダウン」は米国の環境研究家ポール・ホーケン氏が呼び掛け、世界70人の科学者と120人の外部専門家による徹底した評価・検証に基づき、地球温暖化を逆転させるための100の具体的な解決策を1位から100位まで示した。
100通りの解決策は、二酸化炭素の削減量、費用対効果、実現可能性などによってランク付けしたものだ。ドローダウンの翻訳本は2021年に日本でも出版された(1)(2)。1位から10位までは次の通り。
10位 屋上ソーラー
9位 林間放牧(森林で牧場経営する)
8位 ソーラーファーム
7位 家族計画
6位 女児の教育機会(を増やす)
5位 熱帯林(再生・修復)
4位 植物性食品中心の食生活
3位 食品ロスの削減
2位 陸上の風力発電
1位 冷媒(代替フロン問題)
3位にランクインしているのが「食品ロスの削減」だ。100位中、3位に位置するぐらい、環境負荷の軽減に大きく寄与する。英WRAPは、「企業は、食品ロス削減に1ドル投資すれば、さまざまな面で14ドルのリターン(利益)が得られる」と発表したくらいだ(3)。
2021年秋に開催されたCOP26で主要議題の一つに挙げられた「電気自動車」のドローダウンの順位を見てみよう。26位だ。「飛行機」もよく挙げられるが、43位。電気自動車や飛行機が環境対策としてよくないというのではない。それらに比べて、食に関する対策が実情よりも軽視されているのでは、ということだ。
食品ロスも含め、世界の食料システムがこのままのペースで進んでいけば、パリ協定で定めた気温上昇のレベル1.5度など到達できないことを、英国と米国の研究者らが『サイエンス』で論文発表した(4)。世界の食料システムによる温室効果ガスの排出は、世界全体の3分の1を占めるという論文も科学誌「ネイチャー」で発表された(5)。
ドローダウンで1位の「冷媒」は、エアコンや冷蔵庫、冷蔵・冷凍ショーケースなどに使われている代替フロン類が、実は温室効果ガスがCO2よりはるかに大きい問題だ。自然冷媒に切り替えることにより、温室効果ガスの排出を大きく抑制できる可能性がある。
たとえばロッテは、埼玉県の浦和工場で、2019年に、自然冷媒であるCO2を用いたアイスクリームフリーザーを導入した(6)。
ドローダウン2位の陸上の風力発電に関しては、ふくしま未来研究所や信夫山福島電力など、9社が共同出資する福島復興風力合同会社が2025年完成予定を目指している。年間で12万世帯分の電力を発電し、陸上風力発電所として国内最大規模である(7)。
では、3位の「食品ロス削減」についてはどうか。例えば、農林水産省や食品業界団体が2012年10月から食品ロス削減に向けて緩和に取り組んできた食品業界の商慣習「3分の1ルール」がある。
製造から賞味期限までの期間を3分割し、最初の3分の1を「納品期限」次の3分の1を「販売期限」とするルールだ。菓子や飲料など、一部の納品期限は3分の1から2分の1に緩和された。
だが、ある食品製造業の経営幹部に聞いたところ「3分の1どころか、5分の1、6分の1といった短い納品期限を課してくる小売り業者もいますよ」とのこと。「ロスを減らすと経済が縮むから減らしてはいけない」などという声もある。事業者は、以前よりは取り組み始めたものの、理解や実践が進んでいるとは言い難い。
事業者は「環境に良さそうに見えること」をやっているアピールをするのではなく、世界的プロジェクト「ドローダウン」を参考にし、費用対効果や実現可能性の高い「真の」環境対策に取り組むべきではないか。
1)『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』ポール・ホーケン編著、江守正多監訳、東出顕子訳、山と渓谷社
2)第4回 八重洲本大賞ノミネート作品(八重洲ブックセンター、2021/9/18)
4)世界の食料システムがパリ協定の気候変動目標を妨げる可能性『サイエンス』誌:SDGs世界レポ(46)井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/11/18
5-1)国連食料システムサミットの意義と課題 気候危機の今 SDGs世界レポート(71)井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/10/1