官民SDGsの「協創の鼓動」(2):厳島神社

G7サミット(主要7か国首脳会議)が来年5月19日から21日の日程で広島で開催されることになった。広島、日本の代表的な文化遺産である厳島神社での「協創の鼓動」の一端を見てみたい。(千葉商科大学基盤教育機構・教授/ESG/SDGsコンサルタント=笹谷 秀光)

大鳥居が修復中の厳島神社

厳島神社の大鳥居が修復中

現在、厳島神社の大鳥居が修復中だ。参拝のお清めは、アルコール手洗いで始まるのはコロナ禍を象徴している。

文化庁の世界文化遺産HPによれば、厳島神社は瀬戸内海の島を背後にして、その入江の海のなかに木造建物が建ち並ぶ日本でも珍しい神社。社殿構成は12世紀にはじまったが、その後焼失し、1241年に再建。海に建つ木造建物として過酷な環境下にありながら、歴代政権の厚い庇護に支えられて、古い様式を今日に伝えていると紹介している。

その実行の一環が今回の修復である。厳島神社の「重要文化財嚴島神社大鳥居の修理について」という資料によれば、大鳥居の形式は東西に楠の自然木の主柱を置き、その前後に杉の袖柱を2 本ずつ計4 本配し、上下2 段の袖貫で主柱を繋いだ木造両部鳥居である。

修理内容は、屋根葺替(大屋根、袖柱上屋根)(前回の葺替から25年が経過)、塗装塗替(前回の塗替から15年が経過など)、木部補修及び調査、仮設桟橋と説明されている。

国宝及び重要文化財厳島神社東廻廊ほか3棟建造物保存修理工事は補助事業で実施されているが、「協創」の観点から興味深いのは、次のような陣容だ。

事 業 者:宗教法人 嚴島神社
設 計 監 理:宗教法人 嚴島神社営繕課
耐 震 診 断 委 託:公益財団法人 文化財建造物保存技術協会
修 理 指 導:文 化 庁、広島県教育委員会、廿日市市教育委員会
施 工:株式会社 増岡組広島本店
事 業 期 間:令和元年 4 月~令和 5 年 3 月(全体事業)
大鳥居工事期間:令和元年 6 月から未定
東廻廊・客神社工事期間:令和 2 年 8 月から令和 4 年 12 月

ここには、国、自治体、宗教法人、公益財団法人そして施工企業などが協働している。関係者の連携とともに、日本の施工業者の技術力がかなり重要であろう。

SDGsに当てはめると、目標 11「住み続けられるまちづくり」(包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する)のターゲットに「11.4  世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する」がある。

SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」がかかわってくる。もちろんSDGs17(パートナーシップ)や4(文化)も重要だ。このような複合的な SDGs の展開により、的確な修復がなされていくことが期待される。

世界遺産:厳島神社のもう一つの要素

世界遺産:厳島神社(1996年、文化遺産に登録)の構成資産には厳島神社に加え、厳島神社前面の海および背後の弥山原始林(みせんげんしりん)を含む区域がある。

文化庁HPでは、社殿背後の厳島は約30平方キロメートルの島で、特別史跡及び特別名勝に指定。古くから主峰である弥山(海抜530m)が崇敬の対象となり、島全体が神聖視されていた。ここに神社が造営されたのもその故であると考えられるとしている。

厳島の緑濃い森林が海岸線に迫る美しい自然景観は、17世紀頃から「日本三景」の一つとして称えられてきた。特異な構造をもつ厳島神社はこのような自然景観の中、海に向かって建ち並んでいる。

弥山にはロープウェイで登ることができる。厳島の名は,「神をいつきまつる島」から出たといわれ,島全体が信仰の対象となっていたと考えられている。古くから信仰の対象として、手つかずの自然が残る弥山では、厳島神社の後背地にある常緑広葉樹(照葉樹)のエリアが「弥山原始林」として世界遺産に指定された。

植物の多様性は日本の縮図とも言われるほどで、標高に応じてさまざまな木々を観察することができるという。

ロープウェイから見た弥山原始林の自然

モン・サン=ミッシェルと宮島

旅の途中でフランスを代表する文化遺産であるモン・サン=ミッシェルの写真を見かけた。調べてみると、厳島神社が所在する廿日市市は、フランスを代表する文化遺産であるモン・サン=ミッシェルと、観光友好都市となっている。海に浮かぶ世界遺産であること、信仰の聖地として1000年以上の歴史があること、それぞれの国を代表する観光地であることなど、大きな共通点を踏まえたものだ。

廿日市市は、2008年10月にモン・サン=ミッシェルを表敬訪問し、2009年5月16日にエリック・ヴァニエ市長を迎え、嚴島神社で「廿日市市・モン・サン=ミッシェル 観光友好都市提携調印式典」を執り行った。

ちなみに、モン・サン=ミッシェルでは、かつて対岸との間に地続きの道路を作ったために悪化した海の自然を回復するため、最新技術で架橋し世界文化遺産の周りの海の自然修復を図った(2014年に完成)ことも想起される。

世界文化遺産の保護・保全は、国民の理解と協力のもとに進められるもので、「協創の鼓動」を最も感じる取り組みといえる。

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笹谷 秀光(経営コンサルタント)

東京大学法学部卒。1977年農林省入省。2005年環境省大臣官房審議官、2006年農林水産省大臣官房審議官、2007年関東森林管理局長を経て、2008年退官。同年~2019年4月伊藤園で、取締役、常務執行役員等を歴任。2020年4月~24年3月千葉商科大学教授。博士(政策研究)。現在、千葉商科大学客員教授。著書『Q&A SDGs経営増補改訂最新版』(日本経済新聞出版社・2019年・2022年改訂)、『競争優位を実現するSDGs経営』(中央経済社・2023年)。 笹谷秀光公式サイトー発信型三方よし 執筆記事一覧

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