仏の記者500人が「気候変動の記事で忖度しない」

記事のポイント


  1. 仏のジャーナリスト500人が「気候変動の記事で広告主に忖度しない」と宣言
  2. 同国では実業家がメディアを買い占め、圧力をかけることが問題視されていた
  3. ドイツでも同様の動きがあり、欧州他国にも広がる可能性がある

フランスのジャーナリスト有志が9月14日、「気候変動ジャーナリスト憲章」を発表した。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書が、気候変動の情報を伝えるメディアの重要性に言及したことを受け、500人のジャーナリストが署名した。憲章はドイツに次ぐ2カ国目で、「広告主や資金提供者に忖度しない」などジャーナリストの仕事の仕方について13項目を定めた。(在パリ編集委員・羽生のり子)

憲章の起草に関わったジャーナリスト有志たち  (c)ABonfils

憲章は、エコロジーと環境問題を扱う独立系メディア「ヴェール(「緑」の意味)」の編集部が発案した。3月の大統領選挙の際、気候変動と生物多様性について十分な論議がなかったことがきっかけだった。

3月23日に第1稿を出した後、種々の媒体で働くジャーナリスト有志と推敲を重ねた。14日の発表前には500人の個人・団体(編集部、ジャーナリスト団体、ジャーナリスト養成校)が署名していたが、新聞やラジオで報道された同日夜には800人以上に上った。

14日夜、パリでの憲章発表会で、中心的役割を果たしたヴェールのルー・エスパルジリエール編集長とフリージャーナリストのアンヌ=ソフィ・ノヴェルさんは、「気候変動について断片的な情報が多いため、市民はジャーナリズム不信に陥っている。質の高い報道でそれを挽回するのも狙い」と語った。

満席の会場で憲章を紹介するジャーナリストのアンヌ=ソフィ・ノヴェルさん(左)とヴェールのルー・エスパルジリエール編集長。2人が憲章の中心的役割を果たした   (c)ABonfils

テレビなど大手メディアに掘り下げた情報が少ないことに苛立ちを隠さないエコロジー・環境系ジャーナリストは多い。会場は満席で、来場者は各項目の起草者の説明に聞き入った。

IPCC第一作業部会のヴァレリー・マッソン=デルモット共同議長ら科学者が、メディアにおけるエコロジーの扱い方を問うパネル討論もあった。

13項目からなる憲章は以下の通り。

1,気候変動、生物、社会正義は相互に関係しているので、これらを分けずに扱う。

2,わかりやすく伝える。科学的データはそのままでは難しいので、おおよその数字と時系列で説明し、因果関係を明らかにし、比較できる要素を出す。

3,事実を正確に描写すると同時に、事態の緊急性を伝えるため、的確な言葉を選ぶ。状況の重大さを矮小化するような表現は使わない。

4,気候危機について扱う範囲を広げる。問題を人々の個人的責任だけに帰してはならない。危機の本質は政治的レベルで生まれており、その解決には政治的な答えが求められている。

5,起きている激変の原因を調査する。成長モデルとその経済・財政・政治の当事者、そして彼らがエコロジーの危機の中で果たす役割を問う。短期的思考は人類と自然の利益に反することを想起させること。

6,透明性を保つ。情報とその中で名前が出た専門家を詳細に確認し、情報源を明確に示し、利害の抵触がありうることを知らせる。

7,人々の頭の中に疑念を植え付ける戦略を暴く。特定の経済的・政治的利益のために、人々を誤った理解に導いたり、今起きている激変に立ち向かう行動をとることを遅らせるような話題が頻繁に作られている。

8,危機に対する答えの情報を知らせる。気候と生物の危機に対する行動方法を厳密に調査する。そこで提案された解決策を問う。

9,研修を続ける。今起きている激変と、それが社会に何を意味するかについてグローバルな視点が持てるよう、ジャーナリストは在職中、継続して研修を受けなければならない。この権利は、情報処理の質を保つために重要で、誰もが上司に要求できる。

10,汚染する活動で得た資金に対峙する。生物と気候変動のテーマを扱うなら、編集方針に矛盾があってはならない。ジャーナリストは、資金源・広告・メディア提携者が人類と生物に有害であると思われる活動に関わっていたら、恐れず異論を表明する権利がある。

11,編集部の独立性を確固たるものにする。あらゆる圧力から自由な情報を確保するため、メディアの所有者から編集が自立していることが重要である。

12,低炭素ジャーナリズムを実践する。カーボン・フットプリントを減らすため、必要なフィールドワークを切り捨てることなく、汚染の少ない方法で活動する。現地ジャーナリストを使うよう編集部に薦める。

13,協力関係を育てる。メディアで働く者同士が連帯し、地球上で良い生活環境を保つことを大切にするジャーナリズム活動を守る。

フランスでは長者番付に載る実業家が年々メディアを買い占め、自分のメディアに圧力をかけることが問題になっている。

10項と11項はこの現実を反映したものだ。12には、飛行機ではなく鉄道で移動することも含まれる。

エコロジーと環境問題では、高い目標が掲げられることが多い。ジャーナリストに言行不一致がないよう、自らに対する戒めである。

ドイツでは「ドイツ気候ジャーナリズムネットワーク」が4月に憲章を作り、256人のジャーナリストが署名した。独仏に刺激され、欧州他国でも同様の動きが出てくるかもしれない。

hanyu

羽生 のり子(在パリ編集委員)

1991年から在仏。早稲田大学第一文学部仏文卒。立教大学文学研究科博士課程前期終了。パリ第13大学植物療法大学免状。翻訳業を経て2000年頃から記者業を開始。専門分野は環境問題、エコロジー、食、農業、美術、文化。日本農業新聞元パリ特約通信員、聴こえの雑誌「オーディオインフォ」日本版元編集長。ドイツ発祥のルナヨガ®インストラクター兼教師養成コース担当。共著に「新型コロナ 19氏の意見」(農文協)。執筆記事一覧

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キーワード: #脱炭素

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