誰がSDGsを殺すのか、最大の脅威は「価値の糊塗」

記事のポイント


  1. 米シンクタンクはSDGsの達成は2092年になると予測している
  2. カラフルな丸いSDGsピンを着けている人をよく見かけるが、道のりは長い
  3. SDGs達成を阻害する最大の脅威は「価値の糊塗」だという

SDGs(持続可能な開発目標)の認知度が高まる一方で、米シンクタンクがSDGs達成は2092年になるとの予測を発表した。「SDGsがファッションになりつつある」と警鐘を鳴らし、「バリュー(価値)」を評価するモデルを構築した同志社大学大学院ビジネス研究科の須貝フィリップ教授、井上福子教授に寄稿してもらった。

須貝(すがい)フィリップ:同志社大学大学院ビジネス研究科教授、同志社大学社会価値研究センター長。早稲田大学大学院国際情報通信研究科博士課程修了、ニューヨーク大学スターンスクールMBA、タフツ大学BA。国際大学国際経営学研究科教授を経て現職。
井上福子(いのうえ・ふくこ):同志社大学大学院ビジネス研究科教授、同志社大学社会価値研究センター所属。神戸大学博士(経営学)、インディアナ大学MBA(アントレプレナーシップ専攻)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス・アンド・ポリティカル・サイエンスMSc(比較労使関係および人事管理)。日本企業に勤務の後、留学を経て、複数の国際機関および大手外資系企業に勤務。外資系企業では、部長職、人事本部長職等、要職を歴任。国際原子力機関(ウィーン本部)の人材計画課長、上級人事担当官を経て現職。

■SDGs達成に60年以上の遅れ

2030年が間近に迫ってきたが、SDGs(持続可能な開発目標)の達成状況は世界全体でどうなっているのか。残念ながら、私たちはまだ目標から大きく外れており、さらに遅れているように思われる。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2022年のSDGs報告書の序文で、SDGsだけでなく人類全体の厳しい現状を描いている。

「世界が連鎖的かつ相互に結びついた世界的な危機や紛争に直面する中、持続可能な開発のための2030アジェンダに掲げられた抱負は危うい状況だ」

2020年時点で社会進歩指標は、SDGsの達成に必要なペースから60年以上遅れており、2092年まで達成できない状態にあると発表された。最新の2022年報告書では、私たちの社会進歩のペースは過去5年間で米国や英国を含む多くの国においても社会進歩指標全体で大幅な低下を示していることが判明している。

SDGsは政府向けにつくられたものだが、日本や世界の企業のウェブサイトを何気なく見てみると、SDGsを積極的に受け入れていることが分かる。今日、日本の主要なビジネスセンターの近くを数分以上歩くと、ビジネススーツを着た人がカラフルな丸いSDGsピン(※1)を着けているのを見かける。バッジを着けることが、あたかも流行のファッションのようにも見える。

このピンを着けている人の数とSDGs達成の進捗が相関しているとすれば、2030年までのSDGs達成はまだまだ手の届くところにあるだろう。

しかし、残念ながら、SDGsのピンの着用とSDGsの達成レベルが相関しているという証拠はない。このことは、「誰がSDGsを殺しているのか」、そしてより重要な「SDGsを達成するために何ができるのか 」という重大な問題につながっている。

■グリーンウォッシングが横行

SDGsとその実施を巡る問題は極めて複雑だ。経済学者ミルトン・フリードマンは1970年代に米ニューヨーク・タイムズ誌に「ビジネスの社会的責任は利益を上げること」(現在は「フリードマン・ドクトリン」と呼ばれている)を寄稿し、「『ビジネスの社会的責任』のために、経営者が社会的利益のために資金を使うことは代理人としての役割を超えた行動であり不適切である」とした。

しかしながら、企業の社会的貢献への期待がある状態で、代理人として株価を上げようとするために、社会的責任ある行動をとっているように見せることで株価を上げることも可能だ。

これは、グリーンウォッシング(環境に配慮しているように見せかけること)の台頭を予言しているものだ。これを防ぐには、分析と測定の厳密さが必要である。

同志社大学価値研究所の研究では、グリーンウォッシング慣行が横行していること、それがステークホルダー資本主義の台頭によってさらに強化されていることが明らかになっている。

なぜこんなことが起こるのか。

現在までに、同志社大学社会価値研究センターでは、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)など、世界で有力な25以上のESGおよび持続可能性報告フレームワークから、830の影響力の測定値(何を開示するよう要求されているのか、価値がどう測定されているか)について情報を収集した。

それらに基づき、これらの個々の開示を要求されている基準が、企業が主要なステークホルダー(自社、株主、顧客、従業員、パートナー、社会、地球を含む)に対して、創出あるいは破壊した価値を効果的に測定する能力を持つかどうかを評価した結果、98%以上が分析的な厳密さが欠けるために測定する能力を持たないことが分かった。

■「バリュー・ウォッシング」をどう防げるか

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yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs

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