記事のポイント
- SOMPOグループは社員の「MYパーパス」を起点にパーパス経営を推進
- 「人生の目的」を明確にすることで、自社のパーパスが浸透すると考えた
- MYパーパスと会社のパーパスを嚙み合わせて、企業価値を高める
SOMPOグループは社員一人ひとりが策定する「MYパーパス」を起点にパーパス経営を推進する。会社のパーパスを社内に浸透させ、自律的な社員を増やすには「人生の目的(MYパーパス)」を明確にすることが重要だと考えた。MYパーパスと会社のパーパスがかみ合ったときに社員のウェルビーイングが高まり、企業価値の向上につながるという仮説を立てた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

■want、must、canの重なる領域が「MYパーパス」
自社のパーパス(存在意義)を達成するカギは何か。SOMPOグループが出した答えは「MYパーパスの策定」だ。MYパーパスとは、「人生の目的」や「働く意義」を指す。
人生の目的と会社のパーパス(存在意義)を重ね合わせることで、会社への帰属意識が上がり、自律的に働くようになると仮説を立てた。社員のMYパーパスを明確にすべく、全社で力を入れる。
社員にはMYパーパスを見つけるためには「内省」を求めた。これまでの人生を振り返り、want(最も心が動いた瞬間)とmust(解決したい社会課題)、can(できること)を言語化する。この3領域が重なる部分を「MYパーパス」とした。

■背景に「保険市場のシュリンク」
SOMPOグループは国内損保の他に、海外保険、国内生保、介護・シニア、デジタルと5つの事業を展開する。経常収益は4兆1674億円(2021年度)、29カ国・地域に拠点を持ち、社員数は約7万4000人を誇る。
「安心・安全・健康」をテーマに社会的価値を創出しながら成長してきた。創業時は、木造住宅数の増加に伴い「火災保険」、そして自動車の普及とともに「自動車保険」を展開した。今では気候変動に対応した「農業保険」、高齢化に対応した「健康応援機能付き保険」などをつくった。
このように時代によって変化する社会課題への「解」を提供することで成長してきた。ただし、今感じているのは「危機感」だという。
人口減社会では保険市場はシュリンクが予想される。深刻化する気候変動や相次ぐ大規模災害によって利益率も低下する。
これからは、固定概念にとらわれることなく、新たな視点でビジネスを立ち上げなくてはいけない。そのためには、まだ見えていない「社会課題」をいち早く発見することが必要だ。
社員にMYパーパスの策定を求めた狙いは、会社への帰属意識を高めるためだけではない。自律的に働ける社員を増やし、社会課題起点での新規ビジネスの創出も期待したのだ。
■「パーパスマネジメントはタフに」
人材戦略の土台に「MYパーパス」を置いた。MYパーパスと事業のミッションを紐づけ、グループのパーパス「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現を目指す戦略を立てた。
この戦略のカギを握るのが、マネジメント層だ。MYパーパスは、一言で説明すると「人生を通してやりたいこと」。そのため、必ずしも事業に関係するものとは限らない。さらに、内省することで、転職を考えてしまう場合もある。
社員を会社の「枠」に収めるのではなく、社員のやりたいことの「中」に会社を入れるマネジメントが求められる。
一人ひとりの社員に寄り添う高度なスキルが必要なので、同社ではマネジメント層にコーチング技術を教えた。経営層は率先してMYパーパスを開示し、マネジメント層に研修を繰り返した。
研修では、「時には戦ってミッションとパーパスを結びつけるのがリーダーだ」「パーパスマネジメントはタフに」という意見が出て、お互いを叱咤激励するという。
社員は、こうしたマインドや対話スキルを持った上司と「1on1ミーティング」を定期的に開き、MYパーパスを作り上げる。「SOMPOアワード」という社内での表彰制度も設けた。
この改革の効果は数値としても表れている。毎年調査しているエンゲージメント率は国内・海外ともに向上した。次に求めるのは、新規ビジネスの創造だ。
同社の平野友輔氏・サステナブル経営推進部長は、「変化の激しい時代に対応するには、自律した社員が必要。もう『会社の中の自分』では生き残れない」と危機感を話す。