記事のポイント
- フェムテック市場は約635億円(2021年、前年比107.7%)と伸長
- 一方、多種多様な商品が発売され、玉石混交になっていることも
- フェムテック市場拡大の背景から現状の課題、今後の施策を考えた
ここ最近「フェムテック」を謳う商品が次々と誕生し、市場での注目度も高まっている。女性の健康課題を解決する商品やサービスが登場することは、女性の社会進出を後押しするプラスの要因にもなるだろう。しかし、さまざまな企業から多種多様な商品が発売され、玉石混交になっているのも事実だ。本稿では、フェムテック市場拡大の背景から現状の課題、今後より発展していくために必要なことは何かを考えていく。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

■フェムテックの定義と拡大の背景
フェムテックとは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語だ。月経、妊娠・不妊、産後ケア、更年期障害などの健康課題を解決する商品やサービスを指す。
生理周期を管理するためのアプリや吸水性ショーツなどが代表的なものとして挙げられる。技術的要素が少ない商品やサービスの中で「フェムケア」を謳うものも登場しているが、その境界線は明確になっていない。
国内のフェムテック市場の規模は2019年の約574億円から、2021年は前年比107.7%の約635億円に伸長。今後も勢いはつづいていくとみられ、2025年には2兆円規模になると予想されている(※)。
※参照:「フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査(2022年)」矢野経済研究所
市場拡大の背景には、女性のエンパワーメントなどに注目が集まったこと。企業でも、さまざまなライフイベントにまつわる女性の健康課題に寄りそっていく動きが活発になってきたことが挙げられる。
これはジェンダー平等などSDGsの考え方が浸透してきたということもあるが、女性の健康課題による経済損失が、もう無視できないという側面もある。
経産省の調査によると、生理痛やPMSといった月経に伴う女性特有の体調不良による欠勤や生産性の低下で、1年間で約4,900億円もの労働損失が出ているという。
不妊治療や更年期などの健康課題が原因で離職する人を減らすことができれば、経済的インパクトは年間約2兆円という試算も出されている。
将来的な労働力不足を見据えると、管理職比率アップなどの活躍推進だけでなく、働きやすい環境をさまざまなアプローチで整えることが必要になってくる。このような社会的要因も市場拡大の背景にあるといえる。
■玉石混交の商品・サービス
海外ではさまざまな商品やサービスが先行して発売されていたが、日本では2020年頃から吸水性ショーツに代表されるフェムテック商品をベンチャー企業が発売し、話題化。
いまではユニクロやスリーコインズなど、大手企業も市場に参入し始めている。消費者に身近なブランドが手に取りやすい価格で販売しはじめたことで、フェムテックはますますブームとなっていった。
フェムテックの商品やサービスが増え、いままでタブー視されてきた生理に関する悩みや、女性のライフステージごとの健康課題にきちんと向き合える風潮になってきた。
辛くても我慢をしたり、セルフケアをしたりする人が少なくなかったこの領域で解決する選択肢が増えたことは歓迎すべき状況といえるだろう。
その反面、フェムテックを謳いながら技術的な根拠が乏しいものや、効果効能を過剰にアピールした商品やサービスも散見され、玉石混交になってしまっているのも実情だ。
これはまだフェムテック産業が黎明期であり、統一された基準やルールが存在しないこと。またフェムテック自体の立ち位置が、医療、ヘルスケア、健康管理など多岐にまたがっているという特性が原因として挙げられる。
たとえば、今の薬機法に照らし合わせると、生理用品は「白色」「使い捨て」「紙」のものと定義されている。ゆえに現行法で吸水性ショーツは生理用品に区分できず、使い捨てナプキンと同じ効果があることが薬機法上では謳えないことになっている。
しかし、実際にはナプキン〇枚分の吸収力とアピールしている商品も少なくない。このように現状は事業者の倫理や自助努力に委ねられた状態になっている。安全性や信頼性を確保するためにも、業界内で統一した基準や制度をつくっていく必要があるだろう。
一方で女性自身が自分の体に関する知識が乏しく、さまざまなフェムテックの商品やサービスがあっても、ヘルスリテラシーが無いために正しい判断ができないという状況もある。
これは、いままで生理などがタブー視されてきた社会背景のなか、間違った知識や偏った情報が氾濫し、正しい知識を身につける機会を喪失してきたという要因がある。
女性自身はもちろん社会全体で正しい知識を身につけていくために、教育や啓蒙活動も必要になってくるだろ。
ジェンダー平等や女性の社会進出など、日本が遅れているとされている取り組みを後押しするカギになるかもしれないフェムテック。だからこそ一過性のブームではなく、当たり前の選択肢になっていくことが望まれる。