東証「PBR1倍割れ」にメス、求められる経営改革(前)

記事のポイント


  1. 東証がPBR1倍割れ企業に対し、企業価値を高める取組や進捗の開示を要請
  2. 社会課題解決と経済成長の両立を求める経済産業政策が背景に
  3. 企業には新機軸をテコにした経営改革(価値創造経営の推進)が求められる

1月30日、東京証券取引所は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」を公表しました。これは、2022年4月に実施したプライム、スタンダード、グロースへの市場再編の課題や今後の進め方についての有識者による議論に基づき取りまとめられたものです。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

論点は大きく2つあります。1つ目は、プライム基準の未達企業に認めた経過措置の明確化(3年で終了。その後1年で改善できなければ上場廃止など)です。

2つ目は、持続的な企業価値向上に向けた企業の意識改革の促進です。株価純資産倍率(PBR)が1倍未満の企業に対し、資本コスト(市場が求める期待収益率)などを踏まえて企業価値を高める取組や進捗状況を開示するよう要請します。

PBRが1倍未満とは、株式時価総額が純資産額を下回ることです。経営によって企業価値が殆ど生み出されておらず、市場から上場失格とみなされていることを意味します。

このような企業の割合が、米国(S&P500)の3%、欧州(STOXX600)の18%に対し、日本(TOPIX500)では実に43%を占めます(2022年3月7日時点、Bloomberg)。

これらの施策は早ければ今春にも適用が見込まれています。

ミッション志向の産業政策と企業の経営改革(価値創造経営の推進

今回の東証の動きの背景にあるのが、経産省の産業構造審議会に設置された経済産業政策新機軸部会での議論です(本部会は2021年11月に設置、2022年6月に中間整理を公表、1月27日に第11回が開催)。

本部会では、長期的に日本のあるべき姿を描き、そこからバックキャストして必要となる政策対応を、経済産業政策の「新機軸」として描き出すための検討が進められています。

新機軸では、既存の産業や業界の保護・育成ではなく、社会全体の不確実性や社会課題に対し、その解決と経済成長・国際競争力強化の両方をミッションとします。

そして、中長期の成長分野に注力し、新たな市場の創造、企業の投資・イノベーションの加速を促進し、ミッションの実現を目指します。

昨年6月の中間整理では、新機軸の注力分野として「炭素中立型社会の実現」「デジタル社会の実現」「経済安全保障の実現」「新しい健康社会の実現」「災害に対するレジリエンス社会の実現」「バイオものづくり革命の実現」の6つが挙げられています。

これらは日本及び世界が直面する経済・社会課題であり、その解決には世界全体で大きなニーズが存在するため、中長期的に大規模な市場創出が期待できます。

このような市場に官民で積極的に投資し、日本の社会課題解決と経済成長に繋げていこうというのが新機軸の基本的な狙いです。

新機軸を推進する主なプレイヤーは、政府、企業及び資本市場です。その中で主役となるのが企業です。日本企業は新機軸をテコにした経営改革(価値創造経営の推進)に果敢に取り組むことが求められています。

政府及び資本市場は、それぞれの立場から環境整備や規律付けという形で企業を後押しします。政府によるグリーンイノベーション基金の創設、今回の東証の取組などはその一環といえます。後編に続く)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

執筆記事一覧
キーワード: #パーパス

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..