■小林光のエコめがね(27)■
本欄でもすでに報告したとおり、論者は、慶応や東大で学生相手に、そして大丸有のエコッツエリア(東京・千代田)やシティラボ東京(東京・中央)で社会人を相手に、エコビジネスをもっと盛んにしていこう、と説いている。高い意義を強調するだけでなく、どうやったらそれに取り組めるか、商品やビジネスモデル開発の視点、基礎的な技法なども説明している。
その際には、エコビジネスの範囲も説明する。エコビジネスにはいろいろな定義があり得るが、論者は、一番広い定義を採用している。それは、ビジネスの何らかの環境側面での環境負荷を軽減することで収益を増やす、そうしたビジネスが広義の環境ビジネスだ、というものである。
廃棄物処理や大気汚染物質処理装置の製造販売だけが、エコビジネスではないのである。そこを敢えて述べているのは、エコビジネスの種がどこにでもあることに気付いてもらいたいからだ。
このほど、そうした気付きのためのうってつけの商材を一つ見つけた。
それは、典型的なコモデティ商品であるトイレットペーパーである。お勧めは、固有名詞で恐縮だが、日本製紙クレシアの「スコッティ3倍長持ちフラワーパック」だ。同社は、2021年度末をもって従来の長さのトイレットペーパーの生産・販売を取りやめ、22年度から長尺もののみにした。
長尺ものが望ましい理由は複数ある。まず、本連続コラムの観点である環境負荷から見ると、1輸送当たりの積載可能な尺を大きく増やすことができるため、トイレットペーパーの輸送に起因するCO2を大きく減らすことができる。
図は、従来型のダブルに紙を重ねたロールの輸送CO2実績が、3倍巻のダブルを輸送することになれば、どう減るかの比較だ。サステナブル経営推進機構が計算し、41%もの削減になると推計した。これは輸送起因CO2排出量だけだが、当然、包装材も減り、包装材を作ったり廃棄したりする際のCO2も減ることになる。
そして、これも大事なことなので、私はいつも強調するのだが、環境負荷が減ることに付随してさまざまな利益(コ・ベネフィット)も生まれる。
運送労働者の重労働緩和、運輸コストの削減、そして、災害に備える意味では同じ収納体積で多くのトイレットペーパーを備蓄できることにもなる。環境、社会、経済、安全の一石四鳥の効果がある。
同社に聞けば、他社品との差別化が図られ、販売シェアや単価の向上、収益改善に役立ち、エコビジネスに対する社内の意識改革にもつながったそうだ。
同社によれば、発想自体は簡単だが、トイレットペーパーのような薄い紙を、3倍量、それもなるべく柔らかく吸収性のある形状で巻き込むには、特許に至ったものを含めさまざまな技術を動員しないとならなかったそうである。
それはそうだろう。しかし、エコビジネスは閃きだけではできないものの、閃いてこそ、技術も開発できる。頭は柔軟に、いろいろな環境側面の改善を図っていきたいものである。