崩壊するエネルギー基盤、世界はその先に何を見るのか--NPO法人「もったいない学会」会長 石井吉徳 2/2

6.意外に知られない、地球温暖化の科学
地球科学者は,地球の気候が太古から変化してきたことを常識として知っています。そして地球、自然を知るには先ず観測が基本原則と思っています。ところが最近、コンピュータのシミュレーション・モデルで研究する工学系の研究者が多くなってきました。これは学問の進歩と歓迎すべきですが、あくまでも自然観測からの事実、データが優先されるべきでしょう。

IPCCを盲信しない、先ず自分で考える
名古屋産業大学の小川克郎氏は、今地球は寒冷化していると述べています。過去、1882-2009(世界規模で気温観測が始まったのは1882)の地球気温と、大気中の二酸化炭素濃度の変化を調べています。地球気温変化に与える影響ーこの場合はノイズーが大きい都市ヒートアイランド効果を取り除く為に、人口1000人以下の452観測点ーNASA/GISS気温データベース全体7292観測点の内ーしか使っていません。

その結果は温暖化の常識と反したものでした。二酸化炭素が継続的に上昇しているにも関わらず、2002年以降著しい気温下降が見られる、この気温下降が続くと、20世紀後半ー1970年頃以降ーの気温上昇、つまり巷で言われているいわゆる地球温暖化のストックは、今後数年で使い果たすことになる、もし更にこのまま下降が続けば、19世紀の寒冷な時代に逆戻りする可能性があるというのです。

これより先に、アラスカ大学の赤祖父俊一氏の温暖化予測(現代化学2009年5月別刷)もIPCCとかなり違うと述べています。小氷期からの回復過程の上に、数十年の準周期変動が重なった傾向があるというのです。そして今は温暖化は止まり、むしろ下降傾向、2008年の気温は増加トレンドから下降するとの見解です。これは注目に値します。

このような科学的な見解は、今後の温暖化対策、国際的な交渉に大いに参考にすべきではないでしょうか。今、日本に必要なことは「真の科学」です、単純に欧米追従せず自分で考えるべきと思います。

日本の自然と共存する「日本のプランB」
これからは自然と共存する分散社会、地産地消の時代です。食料生産者も中間業者に価格を左右されない自立が求められます。自然エネルギーも無駄のない脱浪費社会の構築が前提でしょう。

その上で、日本列島の地勢・自然を理解し合理的に共存するのです。日本は山岳地帯が多く平野が少なく、降雨量が多い国です。河川は急流ですから小水力に向く地勢です。海岸線の長さは世界第6位なのです。漁業に向くだけでなく水運にも有利です。

自然の恵みを活かすにも地方重視、分散が欠かせません。著名なレスター・ブラウンは以前から「プランB」を提唱していますが、これは大陸の発想です。本来必要なプランは、それぞれの地域の自然と共存すべきです。欧米のプランをそのまま導入するのではなく、日本の自然に最も適した「日本のプランB」を工夫するのです。

そして低エネルギー、脱浪費社会を目標とするのです。滋賀県の嘉田由紀子知事は、自然と共存する「2030年の滋賀・琵琶湖モデル」を打ち出しました。地元の新鮮な産物を買い、自家菜園を作り、クルマに乗らず自転車に乗る。そして琵琶湖を使った舟運を提唱します。

江戸時代は人や物を運ぶメインの運輸は船、琵琶湖は運輸の中心でした。そうした地域の自然やコミュニティの力を活用した自然共生型の社会を目指しています。嘉田さんは「おしっこ、うんちの話を食事の時でもする」と仰っています。つまり江戸時代は糞尿を肥料として畑に戻しており、これが本来のリサイクルの原点だと言うのです。

今は循環型社会のポイントを3R「減量Reduce、再利用Reuse、リサイクルRecycle」と呼びますが、日本が力を入れているのは多くは最後のリサイクルのRです。廃棄した物質を、有用な資源として活用するゼロエミッションは盛んに宣伝されますが、ゼロエミッション社会は、逆に言えばエネルギー無限大の社会となる怖れがあります。

全ての物質は分散、拡散、劣化してゴミになります。それはエントロピーが増えるということです。この自然の流れを逆に回して物質の質を向上させる、つまりエントロピーを下げるには、必ずクオリティの高いエネルギーが必要です。

「おしっこ、うんち」の話は、人間が自然の恵みで生る原点に戻ろう、との象徴的な言葉です。未だに地球が有限ということがわからず、資源の質も技術で何とかなる、と思っている人が多いです。

たしかに現代技術では、原子・分子レベルで何でもできますが、それは無限にエネルギーを使えることが前提です。石油のインフラを無意識に使っているから、限界に気づいていないのです。

効率優先でない地産地消型の社会は、雇用を産みます。在来型の工業化社会はリストラ、非正社員など、人間を不要とする傾向を助長しました。そして現在の石油浪費型社会は、一人の人間に60人のエネルギー奴隷が付いている勘定なとなるのです。これでは社会で失業が増えるのはむしろ当然でした。

そして今の格差社会では、若者の失業率が高くなる傾向があります。職に就けない若者、その上で高騰する食料価格、これでは若者の不満は増大し、社会は不安定となります。これは世界的な傾向といえます。今はネット時代、紙(新聞、雑誌)、電波(ラジオ、TV)に加えて第三のメデイア、双方向のネット情報社会が形成されています。

それを格差社会下位の若者が不満を共有する時代となりました。しかも社会の資源制約、石油減耗が顕在化してきました。時代の一大変革期が始まっていたのです。そこに日本は3・11を迎えました。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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