記事のポイント
- 金融庁と東証がすべての上場企業にガバナンス改革の実質化を強く要請
- PBRを市場評価の目安とした資本収益性・成長性向上の取り組みが求められる
- 本質的には、価値観に基づくバックキャスト型のサステナ経営に期待
金融庁は4月26日、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」を公表しました。これは、企業の持続的な成長と中長期の企業価値向上に向けて、上場企業のコーポレートガバナンス(企業統治)改革を仕切り直すための施策をまとめた行動計画です。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)
これに先立ち、東京証券取引所(以下、東証)は3月31日、上場企業に資本コストや株価を意識した経営への取り組みと進捗状況の開示を求める通知を出しました。特にPBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)が1倍を下回る企業には強く要請しました。
■日本は欧米と比べてPBR1倍割れ企業の比率が高い
金融庁と東証は連携して日本企業のガバナンス改革の実質化を強力に推進しようとしています。この背景には、東証の市場区分再編で2022年4月にできたプライム市場とスタンダード市場に上場する約3300社の内、3月末時点でPBRが1倍を下回る企業が約1800社と半分以上を占めるという現状があります。
PBRとは市場評価指標の1つであり、企業の1株あたり純資産(≒株主資本)に対し株価が何倍なのかを示す値です。1倍割れは、企業の資本収益性や成長性が市場から十分に評価されていないことを示唆する1つの目安と考えられます。
理論上、PBR1倍割れ企業は、株主から預かった資本を毀損しており(資本の適切な活用をとおした企業価値創造ができていない)、事業を続けるより資産を処分して解散した方がよい、即ち「上場失格」と見做されていることを意味します。
日本は欧米と比べてPBR1倍割れ企業の比率が高くなっています。日本では主要500社(TOPIX500)の内4割超でPBRが1倍を下回っています。米国(S&P500)は5%程度、欧州(STOXX600)は2割強です(2022年7月1日時点)。
PBR1倍割れ企業を放置したままだと、海外投資家などから「日本企業(日本市場)は企業価値を高め、株価を引き上げようという意識が低い。投資先として魅力がない」と判断されるリスクが高まります。
■持続的な企業価値向上に向けて金融庁、東証が企業に求めている取り組みとは