記事のポイント
- 味の素は今年2月、2030年までの経営戦略として、「中計の廃止」を宣言した
- 背景には、目先の数字の達成に追われて長期視点を欠く「中計病」があった
- 同社は中計病から脱却し、野心的な目標に挑みやすい社風づくりに取り組む
味の素の藤江太郎社長は2023年2月、2030年までの経営戦略を発表した中で、「中期経営計画」の廃止を宣言した。いわゆる「中計病」から脱却し、社員がワクワクして挑戦しやすい社風づくりに取り組む。そのための指標として、社会価値と経済価値を統合したASV指標を掲げた。同社の森島千佳・執行役常務(サステナビリティ・コミュニケーション担当)にその戦略を聞いた。(オルタナS編集長・池田真隆)
■計画をつくることにエネルギーを掛け過ぎていた
――味の素が「中計」を廃止した経緯を教えて下さい。
これまでは単年度視点の予想を3年分集計して、中計を策定していました。目標の定め方も、現状をベースにした「積み上げ式」でした。
細かい部分まで現実的な数値目標を設定していましたが、策定するだけでもかなりの労力を費やしてきました。計画をつくることにエネルギーを掛け過ぎて、長期視点を失ってしまうことを問題視していたのです。
いまは何が起きるか分からない「VUCA時代」です。そんな時代には、各事業の目標計画を細かく積み上げる従来型の中計は適さないと考えました。変化の激しい世の中で、今から3年後の社会をどれだけ先読みできるでしょうか。
ただし、中計を廃止することが狙いではなく、挑戦的な風土に変えていくことが真の狙いです。不確実な要素があると想定した上で2030年における、「ありたい姿」を描き、その実現に向けて楽しみながら挑戦できる企業文化を醸成していきます。
そのための指標として、「ASV指標」を掲げました。
■ROIC(投下資本利益率)約17%を財務指標に
――ASV指標とは何ですか。
ASVとは、「Ajinomoto Group Creating Shared Value」を略した言葉です。事業を通じた社会価値と経済価値の共創を意味します。社会課題を解決しながら経済価値を生み出していくための指標として作りました。
具体的には、2030年までに、ROE(自己資本利益率)は約20%(2022年実績12.9%)、ROIC(投下資本利益率)は約17%(同9.9%)を財務指標に掲げました。オーガニック成長率は年5%です。
※編集部注: ROI(投資利益率)は分母に投資額を用いる一方で、ROICでは「企業の純資産と借入金を合わせた金額」を分母にする。ROIは個別投資案件の収益性を示すのに対し、ROICは企業全体の収益性を示す指標となる。ROEは 自己資本(株主資本)に対する当期純利益の割合で、「当期純利益/自己資本×100」で計算する。
「環境負荷50%削減」「10億人の健康寿命延伸」など非財務価値も追求します。無形資産の強化として、従業員エンゲージメントスコア85%(2022年11月時点は62%)も目指します。
■営業成績の振り返りは「四半期ごと」から「毎月」に
■心理的安全性を高めるため、対話は年100回以上
■社内説明会の時間の4分の3は「対話」に充てる
■社員一人ひとりがASVを「自分ごと化」してほしい
■世界初、アンモニアの「オンサイト生産」を目指す