記事のポイント
- 金融庁は、インパクト投資の「基本的指針」を2023年度内に策定する
- インパクト投資はESG投資よりもサステナ経営との親和性が高い
- マッチングでは、企業の価値観と投資家の意図の整合性の確認を
政府は6月6日、「新しい資本主義」の実行計画改訂版案を公表しました。その中で、インパクト投資の普及促進の観点から「基本的指針」を本年度内に取りまとめることを明記しました。インパクト投資は、脱炭素や少子高齢化、災害対応など社会課題の解決に資する技術開発や事業革新に取り組む企業への「実効的な支援策」として国内外で注目を集めています。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)
■インパクト投資とESG投資
インパクト投資は、ESG投資の発展形の一つです。通常の投資と同様に「収益」(リターン)を生み出すことが前提です。ですが、同時に、投資を通じて実現を図る具体的な社会・環境面での「効果」(インパクト)と、そのための戦略・因果関係などを主体的にコミットする点に特徴があります。
ESG投資では、企業が実施している環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)関連の取組を評価しますが、直接的な社会・環境面での効果の創出を求めるとは限りません。
そのため、個別の投資が社会課題解決に資する具体的な技術実装やビジネスモデル変革などにどのようにつながり、実際にどの程度の効果を挙げているのか確認することが難しいといった課題があります。
これに対し、インパクト投資は収益性と共に将来の社会・環境面での効果の実現性を評価するものです。そのため、社会課題解決を通して新たな市場創造と持続可能な社会の構築を目指すサステナ経営との親和性がより高いと言えます。
■インパクト投資の国内市場規模は5兆円
■インパクト投資の「基本的指針」を読み解く
■インパクト投資家をパートナーにするには
インパクト投資は、その対象を業種や規模で限定しませんが、スタートアップへの投資としての存在感が高まっています。
特に、収益性と社会課題解決の両立を企図する事業を営む「インパクトスタートアップ」にとって重要な資金調達手段となりつつあります。
5月29日に公表された金融庁の報告書案によると、民間資金のインパクト投資残高は、グローバルで概ね3,000 億ドル~1兆ドルです。国内でも、2021年における市場規模は最大5兆円との試算がありますが、世界的に見ると小規模であり、今後の成長余地が大きいと言えます。
■金融庁のインパクト投資「基本的指針」の4要件
金融庁は、インパクト投資に必要な要件などを「基本的指針案」 として取りまとめます。本年度内の最終化に向けて、市中協議を実施し、国内外の市場関係者に能動的に発信・対話を行う予定です。
本指針に罰則規定はありませんが、監督当局である金融庁が推進の旗を振ることで金融機関や投資家、企業に理解を促し、インパクト投資の拡充につなげる狙いがあると思われます。
指針案では、インパクト投資に必要な要件として以下の4つを示しました。(「効果」は「社会・環境面での効果」の意味)
▶意図:「効果」と「収益性」の双方を実現する明確な意図があるか
▶追加性:投資しない場合と比べて「効果」と「収益性」を実現しているか
▶特定・測定・管理:客観性のある指標で「効果」や「収益性」を定量的・定性的に測定・管理しているか
▶新規性の支援:市場や顧客に変化をもたらす新規性や優位性があるか
■インパクト投資家はサステナ経営を推進する絶好のパートナー
投資対象となる事業を通して、社会・環境面での効果と収益性を実現する最終的な主体は企業です。
インパクト投資では、「投資家の意図」とパーパスや企業理念(及びそれらを実現するためのビジネスモデルや戦略など)に込められた「企業の価値観」とが、基本的に整合していることを対話・エンゲージメントを通して確認することが最も重要です。
インパクト投資がどのような過程を通じ、社会・環境面での効果と収益性を創出し、企業価値向上に結びついているか、その変化を実現する仕組み・プロセス(企業価値向上ストーリー)について、「Theory of Change(TOC)」や「ロジックモデル」などのフレームワークを用いて投資家と企業が相互理解を深めることも重要です。
企業(既存の企業、スタートアップ共)は、インパクト投資家をサステナビリティ経営推進のパートナーと認識することが重要です。
インパクト投資家は、資金や専門知識の提供、規制やステークホルダー要求への対応、ブランド価値の向上、市場競争力の強化など様々な側面で企業に長期的な利益をもたらすことができます。
企業は、持続的な企業価値向上と社会の発展に向けて、インパクト投資家との緊密な協力関係を積極的に築いていくことが期待されています。