記事のポイント
- ISSBの新サステナ開示基準の背景に会計基準の限界がある
- 財務と非財務を統合しないと企業の価値創造力は測れないという考えだ
- 開示基準の背景にある考え方を読み解く
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は6月26日、世界の企業情報開示に大きな変化をもたらすであろう「IFRSサステナビリティ開示基準」を発表しました。この基準を策定した背景には、非財務的な資本を統合的にとらえて企業を評価しないと、企業の真の価値創造力は分からないという会計基準の限界があります。開示に向けたテクニカルなポイント解説ではなく、この基準の背景にある考え方を読み解きます。(オルタナ総研フェロー・中畑陽一)
■開示基準、財務情報発表時と同時に開示求める
今回発表されたのは「IFRS S1サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項」と「IFRS S2気候関連開示」の2つです。
S1は、サステナビリティ関連のリスクと機会についての重要な情報、すなわち投資家などの意思決定に影響を及ぼす情報に主眼が置かれています。比較可能、検証可能、適時かつ理解可能な情報の開示が求められます。
企業はマテリアル(重要)な情報を識別し情報開示を行う必要があり、そのプロセス・考え方の重要性がますます高まるものと考えられます。
S2は、S1の気候変動版となっており、指標として2021年10月のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)基準の一部改定時に示されたスコープ3など7テーマの開示などが要求されています。
S1、S2共に、現在世界中の企業で採用が進むTCFDの4つのコアコンテンツ(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)で構成されています。企業の負担に配慮しつつ、信頼性の高いサステナビリティ情報開示を推し進めるものとなっています。
業種別の指針を扱うSASB(サステナビリティ会計基準審議会)への考慮も求められています。SASBはグローバル基準により適応するための修正が今後進む見込みです。
今回の基準は、財務情報と同じ範囲(連結)での開示、財務情報発表時と同時の開示など昨年の開示草案を踏襲しており、この点が企業にとって大きな壁になると思われます。
ただし、開示初年度は前年との比較情報は必要ない、公表時期は財務情報と同時でなくてもよい、一定の条件を満たせば予測される財務影響の定量情報は不要などの開示主体への配慮がなされています。一方、バリューチェーンも含めた影響を踏まえる事が要求されている点には注意が必要でしょう。
このISSBの基準をベースラインとし、日本ではサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が今年度中に基準案を発表し、来年度中に確定、2026年には第一弾が開示されるといった目標を公表しています。皆様、これを聞いて、「なんだ、まだ余裕があるな」とお感じでしょうか。私は、「まったくない」と考えています。
■開示基準は経営変革ツールとしても機能