記事のポイント
- 経営戦略論「ダイナミック・ケイパビリティ」が注目を集める
- 世の中の変化を感知して、事業に結び付け、組織を自己変容する能力だ
- 先が読めないVUCA時代に適した戦略としてパナソニックなどが関心を持つ
何が起きるか分からないVUCA時代に適した経営戦略論として、「ダイナミック・ケイパビリティ」が注目を集めている。世の中の変化をいち早く感知して、新事業に結び付け、組織を自己変容する能力だ。この戦略論研究の第一人者である慶応義塾大学の菊澤研宗・名誉教授(商学博士)は、「ソニーやパナソニックなど成長企業に共通する経営戦略論であり、日本企業には潜在的に備わっている能力」と語る。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■1997年に米・経営学者が提唱した「第3の経営戦略論」
ダイナミック・ケイパビリティは、環境の変化に対応して既存の資源や資産を再構築して持続的に成長する能力だ。「変化対応的な自己変革能力」とも言える。世界的な経営学者である米カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・ティース教授が1997年に提唱した「第3の経営戦略論」だ。
経営戦略論を学術史的に振り返ると、その中興の祖はマイケル・ポーターだ。ポーターは1970年代に、企業の経営戦略を決めるのは環境や状況だと主張した。この意味で、彼の戦略論の本質は「状況決定論」だ。ところが、この論理で考えると、同じ業界で成功している企業は同じ戦略を取っていることになる。ところが、同じ業界でも相互に異なる戦略をとる企業が存在したのだ。
そこで、1980年代後半には、この理論を批判する経営戦略論が台頭する。ジェイ・バーニーの「資源ベース理論」だ。彼は、各企業は自社が持つ固有の内部資源をベースに戦略的に行動していると考えた。それゆえ、同じ業界であっても各企業は固有の資源いもとづいて異なる戦略をとりうるのだ。しかし、この経営戦略論にも問題があった。
自社の固有の資源に固執してしまうと、環境が変化したとき、柔軟に変化に対応できなくなるのだ。競争優位をもたらす固有の資源は、逆に「コアリジディティ(硬直性)」に変わるわけだ。
そこで第3の経営戦略論として登場してきたのが、デビッド・ティース教授が1997年に提唱したダイナミック・ケイパビリティ論だ。それは、ポーターの状況決定論とバーニーの資源ベース理論を取り入れた考え方だ。環境の変化に対応して固有の資源を再構築するという考え方だ。
■シュンペーターの「新結合」とも異なる「共特化の経済性原理」
■労働流動性を高めて組織に「柔らかさ」を
■パーパスをもとに資源の再構築を進めよ
■ソニーもパナも、成長企業は自己変容能力が高い
■「PBR」は時代遅れの指標