サステナ担当者座談会: 存在意義と収益性、二項対立にしない

記事のポイント


  1. サステナ経営の重要性が高まる一方で、社内浸透に課題を抱える企業は多い
  2. 経営層や社員の理解を深め、行動を促すにはビジョンが必要となる
  3. 非財務の取り組みを人事評価に組み込んだり、共感を広げる施策も

サステナ経営の重要性が高まる一方で、社内浸透に課題を抱える企業は多い。経営層や社員の理解を深め、行動を促すには何が必要なのか。ブリヂストン、リコージャパン、KDDIのサステナ担当者が議論した。(オルタナ編集部) 

稲継明宏氏(ブリヂストン グローバルサステナビリティ統括部門 統括部門長) 
 
2004年、ブリヂストン入社。環境宣言のリファイン、環境長期目標の策定など、環境戦略策定に従事。2015年よりグローバル全体のCSR戦略企画を推進。2018年に経営企画部長としてグローバル本社の経営企画業務を担当した後、2019年からはグローバル全体のサステナビリティ戦略を主導している。
髙橋摩衣氏(リコージャパン 経営企画本部 コーポレートコミニケーション部SDGs推進グループ) 

リコージャパン入社後、都内の中堅大手顧客向けのソリューション提案営業に10年ほど従事する。2022年から経営企画本部でSDGs推進を担当。本社部門として会社のサステナビリティ関連の戦略策定に関与しながら、自身の経験を活かし営業現場が自分ゴト化して活動できるよう社内浸透や全国のSDGsキーパーソンの支援を担当している。 
河田恭兵氏(KDDI コーポレート統括本部サステナビリティ経営推進本部サステナビリティ推進グループ)  

2010年KDDI入社。新規事業部門にてAR/VRサービスの事業開発やKDDI Open Innovation Fund運営、スタートアップの出資及び協業推進などを担当。社内公募で手を挙げ、2022年8月、現部署に着任。 

■「知識」と「行動」に大きなギャップ

――サステナ経営は最重要課題です。社内の認識はいかがですか。

稲継: サステナビリティそのものの浸透と、サステナ経営の浸透は似ているようで異なります。例えば、カーボンニュートラルなど知識的な浸透も必要ですが、経営統合が重要です。この両輪をバランスよく回すのが難しいところです。

いくらサステナビリティ担当部門がサステナビリティの重要性を主張しても、経営トップ自らが重要性を示さなければ、なかなか社員への浸透は進みません。それぞれの立場に応じた言葉に翻訳し、疑問を解決し、コミュニケーションを重ねていって初めて「腹落ち」する。とても時間がかかることです。 

当社はグローバルでサステナ経営の浸透に取り組んでいますが、日本の場合、特に「ノーイング(knowing)」と「ドゥーイング(doing)」のギャップが大きいと感じています。知識としての理解は進みやすいが、自分事として取り組むには工夫が必要だと感じています。

一方で、一度社会貢献活動などに参加すると定着率が高いことからも、いかに実感・体感してもらうかがカギになると考えています。 

髙橋: リコーグループは、1990年代後半には環境保全と事業成長を同時実現する「環境経営」を打ち出すなど、早くから環境を含むサステナビリティの取り組みを行ってきました。

そうした中、当社は2018年から、SDGsへの貢献と事業成長の同時実現を推し進めています。2023年に始まった中期経営計画では、地域・社会課題解決に向けた価値提供領域の拡大を主要戦略の一つとして発表しました。 

リコーの山下良則会長はこれまで経営トップとして、リコーの創業の精神である「三愛精神」とサステナビリティを紐づけて社内外にメッセージを発信してきました。 

三愛精神は「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」というものですが、これは、事業・仕事を通じて、自分、家族、顧客、関係者、社会のすべてを豊かにすることを目指した考えです。社会に貢献する事業を行うことは、リコーのDNAなのです。 

こうした考え方をベースに、2023年は、社員一人ひとりが、事業とSDGsの同軸化を理解してより本質的な実践につなげられるよう、社内の好事例を展開しながら進めています。

河田: 当社はサステナビリティ経営を経営の根幹としています。社長の髙橋も経営方針発表や社員とのダイレクトミーティングの場などで発言の機会があるたびに、何度も強調しています。

トップからのメッセージや地道な浸透活動を並行して進めることでサステナビリティ経営への理解度は高くなったと感じています。実際、半期ごとに行っているサーベイ結果の数値も上がっています。 

課題は、間接部門の社員の腹落ちです。直接、顧客や社会と接するような部門に関しては、自身の業務がどのように社会へ価値を提供しているかが分かりやすいのですが、間接部門はやはりその実感を持つのが難しい。

自分たちの業務が他部門を通じて、社会にどう良い影響を与えているのか、部署単位で議論をしていただく施策を実施しています。

また、弊社が目指すサステナビリティ経営について社長が各部門の社員に直接語りかけ、ディスカッションを行う全社イベントを23年秋から冬にかけて実施予定です。

イベントではサステナビリティ経営を体現している事例に関わる各部署の社員に登壇いただき、より多くの社員にサステナビリティ経営を実感してもらえるような内容になっています。

――パーパス(存在意義)とプロフィタビリティ(収益性)が矛盾するとき、どのように判断していますか。

稲継: 「最高の品質で社会に貢献する」という企業理念の使命に照らし合わせて、自信を持ってそれに沿っているといえるかどうか――が判断基準になります。

サステナビリティとプロフィタビリティの線引きは行っていません。社会価値と顧客価値を両立しながら創出した先に、売り上げや利益があり、企業価値の向上があります。

まずはしっかりと価値を提供することが、社会課題の解決や当社にとっての持続可能性につながると考えています。社会やステークホルダーとともに、一緒に成長していくという考え方なので、サステナビリティかプロフィタビリティかという二項対立的なとらえ方はしていません。

カーボンニュートラルに関しても、理想や究極を求め出すと、技術が生まれるまで何もしないという結論になってしまう。少しでも良くなるのであれば、まずはその方向性にシフトすることが重要だと考えています。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #サステナビリティ

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