記事のポイント
- 環境NGOがCOP28の「原子力発電3倍の宣言は幻想」と断じた
- 一方の「再生可能エネエルギー3倍」には120カ国以上が賛同した
- 両者を同等に語るのは気候危機対策のミスリードになると警鐘をならす
環境NGO3団体は12月13日、COP28の「原子力発電の容量を3倍にする」宣言を受けて会見を開いた。開催地のドバイに滞在するスタッフは「宣言は唐突感が否めず、ほぼ同時になされた再エネ3倍の合意とは比較にならないほど注目度も低い。両者を同等に語ることは、気候危機対策をミスリードすることになりかねない」と、警鐘をならした。(オルタナ副編集長・長濱慎)

会見を開いたのは、気候ネットワーク、国際環境NGO 350.org、FoE Japanの3団体で、脱原発を目指すシンクタンク・原子力資料情報室も参加した。
原子力発電の容量を2050年までに3倍に増やすという宣言は米国の主導で12月2日になされ、日本を含む22カ国が賛同した。原子力資料情報室の松久保肇・事務局長は、「原子力が斜陽産業と化した現在、この目標は現実とかけ離れている」と指摘する。
「米国や日本で原発を拡大できる余地はほとんどない。可能性があるとすれば、宣言の賛同国に入っていない中国とインドや、その他の新興国になる。自国で増やせないから他国に輸出しようというのは、無責任極まりない。原発は計画から導入まで数十年かかり、その間の脱炭素を停滞させるリスクもある」
ドバイに滞在する350.orgの伊与田昌慶・ジャパン・キャンペーナーは、「COP28では、2030年までに再生可能エネギーの容量を3倍にする宣言もなされた」として、こう続ける。
「再エネ3倍については、議長国のアラブ首長国連邦がCOP28の議論の中心に位置づけ120カ国以上が賛同した。一方の原発3倍の賛同国は20カ国程度に過ぎず、現地でもほとんど注目されていない。風前の灯火(ともしび)である原子力があたかも盛り上がっているかのように演出したいという、産業界の意図があるのではないか」
同じくドバイに滞在するFoE Japanの深草亜悠美・気候変動・エネルギーキャンペーナーは、「元よりCOPで原子力は注目されていないが、前回あたりから推進派ロビー団体のブースが目立つようになった。『Nuclear for climate』というTシャツを着てアピールする団体もいる」と話す。

12月5日には、欧州や日本が加盟するOECD原子力機関が小型モジュール炉(SMR)の導入を加速させるイニシアティブの立ち上げを発表した。続いて8日には、原子力の業界団体が立ち上げた「ネットゼロ原子力イニシアティブ」が会場外で会合を開くなど、推進派の動きも目立った。
伊与田キャンペーナーは、「再エネの普及が選択すべき道であることは明白だ。同じ『3倍』だからといって、再エネと原発の両者を並列に語ることは気候危機対策を誤った方向にミスリードすることになりかねない」と、警鐘をならした。